学生生活

2016年08月24日

専攻教育

平成28年度研究室配属(3年)

  九州大学医学部医学科、生命科学科では3年次前期に研究室配属Ⅰのカリキュラムを行っています。これは将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚や倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上をめざすことを目的としています。

今年研究室配属を終えた4名の学生の感想文をご紹介します。
研究室配属感想文
医学科3年 澤本 康平

  今回の研究室配属で私は大木研究室に配属されました。大木研は今年から東京大学に移動したため、東大で研究させていただきました。脳の仕組みに興味があったこと、東大では九大ではできないことを何か経験できるのではないかと思ったことがきっかけで、大木研を希望しました。

  大木研では大脳皮質の情報処理のメカニズム、特に視覚野の仕組みの研究を行っています。具体的には2光子励起法という方法を使って大脳皮質の神経細胞の活動を数百個単位で記録し、解析することで脳の仕組みを明らかにしようとしています。今回の研究室配属では実際に2光子励起法を用いた神経細胞の観察をさせていただいたのですが、この実験を行うのは意外と大変でした。実験をする日は、朝からマウスの手術を行います。毎回4時間近くかかり(慣れると2時間半くらいで終わるらしい)、これだけでも一苦労なのですが、ここまではまだ準備段階にすぎず、その後やっと2光子励起顕微鏡を用いた神経細胞の活動の記録に入ることができます。私が参加させてもらった実験ではたくさんのデータを取る必要があり、10時間近くかかることもありました。実験の準備やデータを取るのがいかに根気が必要で大変かを痛感しましたが、そのあとの解析で綺麗なorientation map(一次視覚野の細胞の方位選択性を色で表したもの)や望んでいた結果に少し近いものが出てきた時には感動しました。

  東大医学部では外部の先生を招いて行うセミナーも頻繁に開催されており、私がいた約1ヶ月の間だけで神経科学関連のセミナーだけで少なくとも5回は行われていました。その中の幾つかには参加させていただき、実際に研究の最前線にいる人たちがどのような研究をしているのかを知ることができました(内容を理解できたかは別の話でしたが)。また、滞在期間中に横浜で日本神経科学大会も行われていて、そちらでもどういう研究が行われているかを知ったり、自分と同年代の人がたくさん学会に来ているのを見たりして刺激を受けることができました。その他にも、大木研の先生と食事に行ったり、隣の研究室と合同の懇親会(飲み会)に出させてもらったりしたのですが、懇親会ではお酒片手に楽しそうに研究の話をしている先生方を見て、研究者の知的好奇心や探究心がいかに強いのかといったことを垣間見ることができたように思います。セミナーや学会の雰囲気を味わい、研究者の方々とお話しさせていただいたのは、普段の大学生活ではできない非常に良い経験だった思います。

  最後になりますが、大木研の皆さん、そして九大の外で1ヶ月勉強するという贅沢をさせてくださった方々に心よりお礼申し上げます。
 
マウスの脳。打ち込んだ試薬が蛍光を発している。
 
orientation map。各細胞をその方位選択性によって色付けしたもの。
 
実験結果を解析している様子


東京大学大学院医学系研究科 統合生理学分野 大木研究室のウェブサイト
3年次研究室配属感想文
医学科3年 長浦 杏菜

 
研究風景
  今回の研究室配属で私は発生再生医学分野の研究室に配属させて頂きました。この研究室では有名なNodalとLeftyという左右軸の形成に関与する遺伝子の発見を皮切りに、哺乳類における体軸形成の研究をされています。
  マウスの発生過程では頭尾軸、背腹軸、左右軸、遠近軸という4つの軸が順に形成されます。左右軸の形成というのは、例えば心臓の形成など胚が左右非対称に発生することを指しており、今回の研究室配属で携わらせて頂いた研究は左右軸の形成に関するNodalという遺伝子シグナルのさらに上流にあると予想されるある分子の可視化技術の確立というものでした。他にも、in situ hybridizationを用いての遺伝子発現の確認等をさせて頂きました。
  
  九州大学では2年次の時に発生学を学びます。その時私が得た知識はおそらく現在解明されている発生学のほんの一部のものであったでしょう。しかし、発生学を学ぶ中で、最初はたった1つの細胞が赤ちゃんとして生まれてくるまでの過程の複雑さと、その複雑なメカニズムがあらゆるお母さんの体中で共通して起こっていることにとても衝撃を覚えました。実体験としての感覚的な赤ちゃんの誕生が、実は、一貫して制御されたシステムによる発生として起こっていると気づかされたからです。そこで研究室の配属先を選択する際にせっかくならば2年生の時に興味のあった発生学を担当してくださっていた目野先生の研究室に行きたいという思いがありこの研究室を第一希望に選びました。
  
  しかし、漠然と発生についての研究をしている研究室というイメージだけを持っていても、研究室に配属されるまでは、具体的にどんな方法でどんな実験が進められているのかは全く見当がつきませんでした。実際には先生方が構築してくださった実験計画に沿って実験を行ったのですが、その計画の複雑さ故に、手順や原理を理解するのに必死で常に同級生と今どんな目的で何の実験をしているのかを確認しあいながら実験を行いました。私たちが今まで経験してきた実験はどれも既に方法も結果も分かっているような実験ばかりであり、一方、当然のことながら研究室では未知の事柄を解明するための実験が行われています。実験方法の計画も結果の判断もすべて自分たちで行わなければならず、最善の実験計画を練るには広範な知識や沢山の経験、様々な実験器具の活用、さらには業者の利用など多くのことを考慮し、目的から逆算していくことが要求されると感じました。それがスムーズにできるようになるまでどれくらいの月日がかかるのだろうと思いました。
  
  実際に行った実験内容は意外と生化学的な部分が多く、目的とするDNAを構築するため、PCRや電気泳動、制限酵素処理、エタノール沈殿、シークエンスなどを行いました。実験の過程でうまく操作できているのかそれとも失敗しているのか色が変わる化学実験のように実験の途中には目で確認できないことが実験をとても困難にしているように思えました。
  
  私は大学に入ってから「実際の生活には全く関係のないように見える研究は人の探究心の満足だけにとどまらず、本当に実生活に役立てられているのか」という疑問がありました。発生学の研究においても例外ではありませんでしたが、今回の配属でその答えはイエスであると感じました。発生の研究は長いスパンで行われるため、今回の研究室配属で何か具体的な結果を得たということはありませんでしたが、その先にある将来的な治療への活用に思いをはせつつ実験を行えたことが将来現場に立つ者として研究者の視点に立ってみるという点で、大きな収穫だったと感じています。目野先生、北島先生には大変お世話になりました。1か月間ありがとうございました。
 


発生再生医学分野のウェブサイト

前期研究室配属を終えて
生命科学科3年 臼井 詩織 

 
配属期間最終日、セミナーでの発表風景
 
  前期研究室配属の配属先希望調査が行われたとき、まだどんな分野のどんな研究がしたいかなど何も定まっていなかった私は希望先を決めるのにも一苦労。いくつもの研究室の間で迷った挙げ句、最初に行くのならまずは研究の「基本」をしっかりと教えて頂けるところに、と生化学教室(住本研)を選びました。
 
  前期研究室配属の期間で行う内容は研究室によって様々で、先生や先輩の付き添いのもとラボで行われている研究の実験の一部を担当させてもらう(耳に入る限りでは恐らくこのパターンが一番多い)、先生の行う実験や手術等を見学する(臨床系の研究室に多いように感じる)、自分で研究テーマを設定し調査や実験を行う、などがあります。しかし、50以上の受け入れ先の中、この住本研のように基礎的な実験操作の習得を目指した「実習」のようなものを行っている研究室は殆ど無いのではないかと思います。

  ここでの前期研究室配属はまずピペットマンを正しく使えるようになるための練習に始まり、そのあと大腸菌を用いた組み換えタンパク質の精製(プラスミド導入→発現誘導→精製→定量・分析まで)などを通して基本的なタンパク質の扱い方や実験手法を学びました。また、期間を通して各人1本の論文を読み、配属期間最後の2日にセミナーで研究室の皆さんを前に論文紹介と実習成果発表を行いました。実習の際それぞれの実験操作などに対してその原理原則からの丁寧な説明・指導を頂いたことにはもちろんですが、このセミナーにはとりわけ感謝しております。

  英語の論文を通して読むのはこれが初めての経験だったのですが、そのときの私は生徒が授業中教師の話を聞いているときのような感覚で、あたかも「筆者は何を言いたいのか」を抑えることだけが目的であるかのような受け身の姿勢で読んでいました。しかし、セミナー発表の際に皆さんから様々なご指摘やご質問などを頂く中で、科学をする者であれば「この論文で扱われている題材はそもそもどんなものなのか」「1つ1つの実験操作にどんな意味があるのか」「実験結果と筆者たちの主張には本当に整合性があるのか」といったScientificな目が必要であり、今回の私はそもそもの姿勢が違っていたのだということに気付かされました。こういった根本的な部分にこの一番始めの研究室配属で気付くことができたのは、今後につながる大きな収穫であったと思います。ご指導いただいた先生方、先輩方、研究室の皆様、本当にありがとうございました。
 
 医学科と生命科学科の差の1つとして、この前期研究室配属やフリークォーター(FQ; いわゆる“夏休み”期間中に研究室に通うことができる)を終えても試験を挟んですぐ後期研究室配属期間が始まる、ということがあります。この期間は4クールに分けられているので3年生のうちに最大6つの研究室に通うことができ、それを踏まえて4年次卒業研究を行うときの配属先を決められるという、私のような専門分野が定まっていない者にとってはとても嬉しい制度です。FQの今、私は既にまた他の研究室にお世話になり始めています。あと半年ちょっとですが、たくさんの研究室を回ってゆっくりしっかりと専門分野選びをしていけたらと思います。
 

生化学分野のウェブサイト
早期研究配属 感想文
生命科学科3年  松原 圭佑
 
研究風景 
 私は、早期研究室配属で生体防御医学研究所免疫遺伝学分野、福井先生の研究室にお世話になりました。私は、自己免疫疾患に興味がありまして、ゆくゆくはその治療に貢献できるような人間になりたい、という思いからこちらの研究室への配属を希望しました。実は、高校時代に、受験へのモチベーションとして研究室などについて調べているときに免疫遺伝学分野のHPを発見し、これだ!と強く惹かれるものがあったということがスタートとなっています。(HPには生医研のソフトボール大会の写真がどんと構えていて、ソフトボール好きの私としましてはそこに惹かれたというのもあります。)そのため、今回の配属は念願とも言えるものでした。

  免疫遺伝学分野では、DOCK2及びその関連分子を中心とした細胞骨格制御におけるシグナルに注目して、その観点から免疫応答の仕組みを解明する、ということを目的として研究を行っています。その中で、私は、免疫を担当する細胞の挙動や機能に関する基礎的な実験を3週間かけて体験させて頂きました。例えば、健常マウスとDOCK2欠損マウスから、T細胞を取り出し、その免疫応答においての違いを比較する、といったものです。これらの実験は結果がすでに分かっている、という性質のもので、ある意味で教科書に載っているような事象を再確認する、といったものでした。そのような実験のプログラムに沿って、日替わりでご指導頂く研究室の方とともに実験を行っていくことで、免疫学における基礎的な事柄について理解を深める、という風に福井先生が計画をしてくださり、実際に、僕らも未熟ながらもある程度の力はついたかな、と思っております。配属最終週には、研究室の方々に向けて学んだことをプレゼンテーションする、といった機会があり、その際にも様々なアドバイスを頂きました。

  ここからは、早期研究室配属の一か月で感じたこと、考えたことを書かせて頂こうと思います。まずは、研究における難しい点、これを身をもって感じました。例えば、実験がうまくいかないということは往々にしてある、ということです。今回体験させて頂いた実験はすべて、結果が一般的に共有されたものであるため、出た結果に対する評価は簡単にできますが、実際の研究となると、結果に対する評価をどうするかといったものは非常にむずかしい問題となります。出た結果が予測されたものと異なった場合、それは手技のミスかもしれないし、ひょっとすれば大発見かもしれません。このために手技に非常に気を付けなくてはならない、という問題。また、教科書に当たり前のように出てくるT細胞やB細胞を単離するのに一苦労です。性質をきちんと理解したうえで、適切な操作をすることでようやく見たいものを準備することができます。一方で、楽しい!と思える瞬間もありました。出たデータに対して、これはこういうことだろう、そうすればこうなるのではないだろうか、などと議論する時間は非常に楽しく、ワクワクするものでありました。これまで実際の現場を見ることがなかった私にとって、リアルな現場を見ることのできたこの一か月は非常に貴重なものとなりました。

  最後に、この一か月間ご指導いただいた研究室の方々に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

生体防御医学研究所 免疫遺伝学分野分野のウェブサイト
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