教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医学を志されたのはいつ頃ですか。

 私は大学に入学する前から、基礎医学の研究者になろうと思っていました。小学校の頃から、研究者であった父の影響などから、研究者になりたいと自然に思っていました。高校くらいまでは、物理か数学の研究者になろうと思っていたのですが、大学の学部を選ぶ時に、医学・生物学はまだわかっていないことが多く、研究を行っていく上での魅力を感じましたので、医学部を選んで受験しました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 私は東京大学理科3類(医学部進学コース)に入学したのですが、研究をやろうと思って入学しましたので、一年生の頃から、大学のあちらこちらの研究室に顔を出し、実験をさせて頂いたりして過ごしていました。ある日ふらっと「研究に興味があるのですが」と訪れても、快く受け入れてくださる研究室がほとんどでした。九州大学の場合は、3年次の基礎配属で研究室に参加することができるのですが、それ以外の時でも希望する学生さんを歓迎してくれる研究室が多いと思います。

 はじめは基本的な実験の指導をして頂いたのですが、すぐに研究室で行っている研究テーマに沿った研究を任せて頂き、やりがいを持って実験をしていました。大学の授業で臨床実習を経験し、少し臨床医に興味を惹かれたこともありましたが、やはり入学前の気持ちと変わらず基礎医学研究者の道を進みました。医学部での6年間は、研究に必要な基礎を身に付ける期間でした。研究室を訪れると論文を読むように言われ、当然英語ですから、一年生の時は全訳に近い形で辞書を引き、訳しながら、一つの論文を読むのに一日かかることもありました。そうやって論文を読むことにも慣れ、自分で実験をデザインし、実験をやっていく過程などを実践し、身に付けていきました。
 様々な研究室をめぐって研究をし、自分でもたくさんの本を読み、そして研究で米国に短期留学したりと、一番大学の頃が自分の幅を広げることが出来た時期でした。
 

学生当時、実際に研究をされてみて感じられたことを教えてください。

 高校生くらいの頃は、研究というものは、アイデアを思いついて、一週間くらい実験をすればすぐに新しいことがわかるような印象でいたのですが、そうでないことに最初少し戸惑いました。一ヶ月間、朝から晩まで実験して、それでも少ししか結果がでない、こんなにたくさんのことをやらないと結果がでないのかということに少し驚きました。それでも、やっていくうちにだんだんと楽しくなってきました。「こうやったらこうなるかも」という仮説をたてて、実験をし、その結果を踏まえ新しい仮説をたてて実験。そういったループが楽しいと思いましたし、自由にやらせて頂いていましたので、自分の力で少しずつわかったことを積み上げていくことも楽しいと思いました。
 

現在の専門に進まれることを決められたのはいつ頃で、そのきっかけをお聞かせください。

 様々な研究室を回って、自分が一番興味を持ったものを選びました。
私は医学部卒業後、研修医の課程を踏まず、東京大学医学系研究科博士課程の方に進学しました。研究の分野を選ぶときに、まず分子生物学(生命現象を分子の言葉で説明しようとする学問)的なものをやるか、生理学(生命現象を機能の側面から研究する学問)的なものをやるかを考えました。生理学の方が、どちらかというと物質中心ではなく機能中心なので、原理的なものにつながる研究ができると思い、より興味を持つことが出来ました。生理学の中でも、細胞レベルの生理学、個体レベルの生理学とありまして、どちらの研究室にも参加してみて、両方とも面白く感じましたが、脳が全体としてどう働いているかということへの興味が強かったので個体レベルの生理学の方を選びました。脳の働きに興味を持ったのは、医学部で講義を受けたことも影響していると思います。

今のやりがいと目標をお聞かせください。

 今は新しい技術が発達し、昔では考えられなかった実験が可能になってきています。従来であれば、脳の研究というと、ひとつひとつの神経細胞の活動しか観察出来ず、出来ることが限られていました。複数の神経細胞がネットワークを形成し、個々に働きを持って脳の機能というものが成り立っているのですが、それを調べる術がありませんでした。それが昨今の急激な科学技術の進歩により、神経細胞のネットワークや何百個もの神経細胞の動きを同時に観察することが可能になってきています。そのような技術を使って、今までは考えることもできなかったことを解明していくことにやりがいを感じています。
 

学生にメッセージをお願いします。

 学生時代に何でも経験してください。自分の例で言えば様々な研究分野を経験したことや留学をしたことになりますが、それ以外の専門以外の教養科目などすべて役に立ったと感じています。初期臨床実習に進んでも、大学院に進学しても、それから先は時間も限られるため、やれることが制限されてしまいます。たとえ浅い経験しかしていなくても、後で似たようなことを始める時に始めやすくなると思います。

 高校生の方には、医学部で基礎医学・生物学の研究をやっていることをもっと知って欲しいと思います。基礎医学研究はもちろん医学の研究でもあるのですが、哺乳類の生物学という側面も強く、理学部と同等に盛んに行われています。医学部の研究室では、授業外ですが学部生が複数の研究室を自由に行き来できる環境があり、そうでありながら基礎研究を志望する学生は多くないので、丁寧な指導を受けることができます。また医学部の授業では、幅広い教育が行われています。私自身、生物の研究をやる上で、医学部を卒業しておいてよかったと思っています。実際、現在行っている研究についても、個体レベルの生理学と細胞レベルの生理学が必要で、私はたまたま両方を経験していたことが役立ちました。
 幅広い知識や経験は、その方が研究者として進んでいく中で必ず助けになると思います。生物学の研究に興味を持たれている方が、理学部ではなく医学部への進学を選ぶことも選択肢のひとつにして欲しいと思います。

大木教授について

大木 研一 教授
基礎医学部門生体情報科学講座分子生理学分野 教授
趣味は読書。一般的な小説はもちろん、数学や物理の本も空いた時間に読まれているそうです。本屋には二週間一回は足を運ぶ程。
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