教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医学を志されたのはいつ頃ですか。

 高校生のときから分子レベルで生命の研究をやりたいと考えていたので、医学部に進学するか理学部に進学するかで随分迷いました。日本で初めて遺伝子組み換えを行うなど遺伝子工学の先端を走っていたことと地元ということもあって、九州大学医学部に進学しました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 私たちの頃は、初めの2年間を六本松の教養部で過ごしました。生命の研究をしたいと思って入学したのに、なかなか専門の勉強ができないことをもどかしく感じて、自分で分子生物学関係の教科書や専門書を読みかじっていました。その一方で、医学部野球部に入ったり、自分の興味のままに幅広い分野の本を読んだりと、いい時間だったと思います。

 3年生からは病院キャンパスで専門を学び始め、3・4年生で基礎を5・6年生で臨床を学びました。3年生のときに当時の第一生化学(現医化学)の高木教授の講義を受けました。講義の後に、同教室で講師をしておられた榊先生に質問に行ったことがきっかけで、夏休みに実験をさせて貰ったり、抄読会も開いて頂きました。部活も6年生の夏まで続けましたし、友人達ともよく遊んで、楽しい学生生活だったと思います。
 

学生時代の研究経験についてお聞かせください。

 当時はカリキュラムとしての研究室配属はありませんでしたが、自主的に研究室を訪ねる学生が少なからずいました。第一生化学に出入りするようになったのは、もちろん分子生物学ということもありますが、榊先生の面倒見の良さと親しみやすいお人柄も大きな要因でした。講義や実習で臨床の面白さも感じたのですが、卒業後は臨床には進まず、学年で一人だけ基礎の大学院に進学しました。

 第一生化学の高木教授が定年で退官されたこともあって、大学院は第二生化学に入れて頂きました。研究者を目指すことに迷いはなかったものの、研究テーマについては決めかねていました。分子生物学が盛んになって、多くの研究者が様々な遺伝子の研究を進めている中で、自分もその流れに加わることに抵抗があったのです。第二生化学の水上教授は、基礎でやって行くのなら幅広く勉強した方がよいというお考えだったのではないかと思いますが、大学院進学後しばらくは実験もせずに文献を読み漁っては研究テーマを考える日々を過ごさせて下さいました。やがて、遺伝子に働きかけるタンパク質の研究を始めようと思い立ち、新設の遺伝子実験施設に異動されていた榊先生の下で実験を開始した頃には、もう夏になっていました。その後もずっと第二生化学のセミナーに参加して幅広く勉強させて貰ったことが、後の研究活動に役立ちました。大学院生に十分に考えて迷う時間を与えて下さるなど、思い返すとよい先生方に恵まれていました。
 

現在の専門に進まれたきっかけをお聞かせください。

 当初は、ある特定の遺伝子に働きかけるタンパク質ということで、一対一の関係に着目していました。研究を進めるうちに、そのタンパク質が影響するのは、ひとつではなく多数の遺伝子だと思い至りました。そうなると、一対一ではなく一対多あるいは多対多の関係を探ることに興味が移って、遺伝子全体つまりゲノムを意識するようになりました。ちょうどヒトゲノム計画が議論され始めた時代で、榊先生もそれに乗り出そうとされていましたので、今の専門であるゲノム科学への研究へと進んでいきました。

研究の面白さを教えてください。

 研究の魅力は、何よりも自分の興味があることを自分のスタイルで追求できることです。何をテーマに選んでも良いし、どう攻めてもよい。そこが一番の魅力です。受験勉強では、他人と同じ問題をどれだけ早くあるいは多く解くかが問われます。一方、研究では、いかに人と違う問題を見つけて解くか、あるいは同じ問題でもどのように解くかが重要になってきます。問題設定やアプローチに個性を最大限に発揮できる世界であることを知って欲しいと思います。但し、個性を発揮するには、基礎的な素養の積み上げが不可欠であることは忘れてはなりません。
 

医学部で学び、将来研究を行うことの利点を教えてください。

 一つの生物種をこれだけ多角的・体系的に学べるのは医学部以外にありません。また、対象が他ならぬヒトであることも医学部ならではです。医学部には臨床医学のみならず、極めて基礎的な分野から公衆衛生学や法医学のように社会に直結する分野まで、実に幅広い研究が行われています。きっと興味に合致する研究室が見つかると思います。研究者としてのキャリアを考える人は、研究生活のスタートが他の学部よりも2年以上遅れることを無駄と感じるかもしれません。私もそうでした。でも長い目で見ると大差ありません。むしろ、その間に他学部では絶対に学べない貴重な経験を積んで、それが研究のモチベーションにつながることも多いようです。 
 

やりがいと目標をお聞かせください。

 ありきたりですが、やはり研究者ですので、自分の好きな分野において大小に関わらず新しいことを見つけるのがやりがいです。

 それから、私は、新しい実験技術とか方法論を考えることが好きで、力を入れています。最初に取り組んだ研究では、皆が未だ方法論を模索しているような状態だったので、とても苦労しました。おかげで方法論の重要性が身に沁みて、自分でも新しいものを生み出したいと思うようになりました。自分の開発した方法が他の研究者の役に立っているのを見るのは、自分自身の発見とは違う独特の喜びがあります。

 もうひとつは、若手研究者の成長です。これも大きな喜びで、ひとりでもふたりでも独立した研究者として育っていって欲しいと思っています。
 

学生さんにメッセージをお願いします。

 入学後はいったんリセットして、受験勉強とは違う勉強の仕方を身に付けて下さい。膨大な医学知識に向き合いながら、一生、勉強し続けねばならないのが、医師や研究者です。各自に最も適した形で、息長く勉強できる方法を身につけて、学ぶ喜びを理解して欲しいと思います。

 それから、医師の養成は医学部の第一の使命ですが、ひとりでも多くの人が基礎医学にも目を向けて研究者を目指して欲しいと思っています。次世代の医学・医療の源泉が基礎医学ですから、そこを支える層が薄くなると医学・医療に未来はありません。基礎医学の意義を理解して、研究を志す人が増えることを願っていますし、そんなに大上段に構えなくてもやってみると研究は楽しいものですよ。また、臨床医になる人達も探求心・研究心を持ち続けねばなりませんし、キャリアのどこかで基礎研究に没頭する時期を持てるように心がけて欲しいなと思っています。

伊藤教授について

伊藤 隆司 教授
医学研究院 基礎医学部門 生体制御学講座 医化学分野
趣味はとりたてて思いつかないとのことですが、敢えて言えば読書。最近は明治から昭和にかけての歴史を読み漁っておられるとのこと。よくよく考えてみると趣味と仕事の境目が曖昧で、休日も研究のことをあれこれ考えながら散歩をしていることが多いそうです。
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