教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医学を志されたのはいつ頃ですか。

 私はもともと言語学への興味が強く、文学部へ進学しようと思っていました。「同じ概念を異なる言語で表現できる。」ということをとても面白いと感じていたのですね。両親をはじめ高校の先生からは、人の役に立つことに直結しているということで、医学部への進学を強く勧められていましたが、私は全くその気になりませんでした。

 転機となったのは、私が高校3年生の時に父が事故にあったことです。けがは大したことなかったのですが、その後の経過で重症感染症である敗血症になり、生命の危機を感じました。大学への進学どころか、これからの生活について心配しなくてはならない状況だったのですが、医療の恩恵によって回復することができました。このことがあり医療、医学の素晴らしさを実感し、医師への道を歩むことにしました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 学生時代の過ごし方を聞かれれば、医学生というより塾講師として時間が長かったですね。
 塾講師をしている友人に「手伝ってくれ。」と言われたことから、休日はもっぱら塾で教えていました。高校受験対策が中心の塾で、受験目前の年末年始は当然として、夏休み、冬休みなどの長期休暇も塾。塾で教える以外も、模試会場の手配をはじめ、当日の試験監督のバイトの募集、難関大学の大学生が帰省するとなったら臨時講師を頼んだり、本業は塾講師なんじゃないかと思うくらいでした。

 塾で教える以外にも塾の生徒さんたちとのさまざまな交流があり、「体育の課外授業」と称して、遊園地へ連れていったり、「英語の課外授業」では映画館に洋画を鑑賞しにいっていました。勉強以外のこうしたつながりもあり、高校に進学した後も塾に通ってきてくれる子も出るくらい楽しい雰囲気をつくることができました。
 ありがたかったのは、親御さんが「課外授業」に理解を示してくださって、快く送り出してくれたことです。私は一人っ子だったので、弟、妹の面倒を見ているような感じだったのかもしれません。結婚式に招待してくれて、花嫁姿を見せてくれた「妹」もいましたし、今でも交流が続いている「弟」もいます。
 

現在の専門に進まれたきっかけをお聞かせください。

 循環器内科へ入局することを決めたのは6年生の12月でした。お正月明けには卒業試験が始まるので、本当に卒業目前です。その時までは血液内科に進むことにしていたのですが。
 診療科を選ぶにあたって、外科か内科か?ということであれば、病態をじっくりととらえ治療方針を決めてい行く点で内科が魅力的に思え、内科に進むことにはしていました。「では具体的な診療科は?」となるとその時には決めかねて、5年生のベットサイドの時に、当時の医療の課題であったがんを専門にした方がいいかなと思い、血液のがんである白血病や悪性リンパ腫の治療を行う血液内科に進むことを決めました。
 それがどういうわけか、卒業試験も目前に迫ったときにふっと循環器内科に進もうと思ったのです。印象的な出来事や転機があったわけではなく、不思議とそう思ったのです。進むと決めた後は迷いなく今まで歩んでこれました。 今となっては、あの時に循環器内科を選んで良かったと思っています。助けが必要な人の役に立つということでは、循環器内科医は胸痛などの激しい痛みに苦しむ患者さんを直ちに治療してあげることができますし、やはり内科なので病態について理解して治療方針を決める必要もある。瞬発的な判断も、じっくりとした熟考も両方ができる診療科であることが、私の性には合っていたと思います。
 

今のやりがいと目標をお聞かせください。

 私は循環器内科の中でも心不全を専門としています。心不全はだんだんと心臓の機能が低下して、呼吸困難などの症状が現れてくるものです。現在の医療で、色々な治療を行うことができますが、なぜこのようなことが起こるのかの根本的なことはまだわかっていません。多くの研究者が様々な角度から研究を行っており、私もその一人です。目標としては心不全がおこるメカニズムの解明を行うことです。

 やりがいは大学の医師としての日常です。基礎研究を行い、それを臨床の現場に反映し、臨床で得られたクリニカル・クエスチョンを切り口にさらにまた研究を進めていく。そういった基礎と臨床の架け橋としての役割に非常に意義を感じています。

 それから、やりがいというよりは喜びになるのですが、若手の先生と一緒に仕事をできることは一番大きいです。初期、後期研修の先生もそうですし、研修後に大学院生として研究をやり出したくらいの先生など、若手の先生は非常に斬新な発想をします。それはある程度の経験を積んだベテランがいくら考えても思い至らないような発想です。既存の概念に対して新しいアプローチをし、それを上回る新しい概念を打ち立てていくということには、このような発想がとても重要になります。そして若手の先生と議論を交わしながら、その柔軟な発想と、自分のこれまでの知識や経験で培ったものとを、融合させていくというのはとても刺激になり楽しいです。教育でもそうなのですが、特に研究に関しては一方通行ではいけません。議論の中で新しいことを発見していく。これは非常に重要だと感じています。

医師として大切にしていることをお聞かせください。

 医学というと理系というイメージが強いのですが、渦中にいると実は言葉が担う役割が大きく文系的な要素も多分にあると感じます。
 患者さんへの説明をはじめとして、チーム医療では情報共有のために話すということは必須です。いかに研究はデータサイエンスといっても、そのデータに説得力を持たせ、価値を伝えることについては、説明文が不可欠ですし、発表には言葉を用います。 そして、先人の残した医療、医学業績を理解して次世代へ継承するにも、言葉、言語は重要です。

 私はもとより言葉学に興味があったということが影響しているせいか、言葉を大切にして診療、研究活動、チームの運営を行っています。 人を動かすのは言葉の力であると思いますし、若手の先生との議論を実のあるものにするのにも、やはり言葉の担う役割は大きいです。 こうやって振り返ると、私は医師の仕事を通じて、本来やりたかった言語についても携われているのだと思います。
 

学生さんにメッセージをお願いします。

 これから医師を目指して医学部への受験を考えている方には、医学、医療というものは困っている人の力になれるという意味で非常に素晴らしい職業であることを伝えたいです。そうして、人に役立ちたいと思い医師として成長していこうとすることが、知識や技術ばかりでなく、人間性など自分自身の価値を高めることにもつながります。多くの方に医学、医療に携わる仕事について欲しいと思いますし、「自分のため」ではなく、「人のために」ということを大切に医師の道を歩んで欲しいと思います。自分のためではなく人のため。その思いが大事だと思います。

 また、医師になってからは目先の出来ることばかりにとらわれず、大きな視野で目標設定して欲しいと思います。医療技術の進歩とともに次々に新しいことが医療現場に入ってきます。私が医師になった時に習った医療技術の大半はやらなくなり、その代わり新しい検査や治療をやるようになりました。 テクノロジーの進化は速く、近年そのスピードは加速度的にさらに速くなってきています。診療技術において、「これが出来ないから、出来るようになる。」それ自体は決して蔑ろにできないのですが、そこが終着点ではないことを心がけて欲しいと思います。

 これから先は、医療の在り方についても変化があると思います。Wearable deviceなども発展し、医師が確認する患者さんの情報は、病院の検査結果のみならず、患者さんの日常情報やひいてはゲノム情報などにも及ぶ時代が来ると思います。膨大な情報を処理し答えを導く能力が医師にも求められると思います。そういった情報の処理に長けているのが人工知能です。医療現場へ人工知能が入ってくるのは必至であり、AI(人工知能)がチーム医療の一員に加わることが普通になる時代がくると思います。

 時代の大勢にも目を向け、多角的な視野から自分の引き出しの数を増やしてください。自分の担う役割をしっかりと果たしながら、様々なことに対応できる医師、人間になって欲しいと思います。

筒井教授について

筒井 裕之 教授
医学研究院 臨床医学部門 内科学講座 循環器内科学分野
趣味は仏像鑑賞。宗教的な意味合いではなく造形として素晴らしいと思われるとのこと。
仏像に表現された人間の喜怒哀楽は言葉を介することなく人々に訴えかける。そこに言語とは別の魅力を感じるそうです。
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