学生生活

2018年08月22日

専攻教育

平成30年度研究室配属(3年生)

  九州大学医学部医学科および生命科学科では、3年次に実際の研究室に配属し、研究生活を経験する実習「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、研究の醍醐味や重要性を認識するとともに、将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚、倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上を目指すことを目的としています。

  本年度、研究室配属を終えた5名の学生の感想文をご紹介します。
研究室配属感想
医学科3年 佐野 仁美

  
  私は、三年次研究室配属では、生体防御医学研究所の脳機能制御学の教室に配属されることになった。そこは、もともとアルツハイマー病を扱う研究室であったが、臨床部門からも何人かの研究者が集まり、研究室が持つアルツハイマー病の研究を通して培われてきた技術などを活かして、アルツハイマー病という枠にとらわれず、研究者それぞれが様々な研究テーマで研究を行っていた。実験技術などを共有しているとはいえ、同じ研究室に属している研究者たちが、学生である私から見ると全く異なっているように思えるテーマの研究をしていたことに、まず私は驚いた。遺伝病、眼科など、研究者それぞれに自分の専門分野があり、分からないことがあれば自由に聞きあえるというのは、素晴らしい環境だと感じた。

 
 
  私は、この研究室に4週間滞在したが、二人の研究者と一人のテクニカルスタッフの先生に1週間ずつ付いてもらい、研究手法や技術をとても丁寧に指導していただいた。
  1週目は、SDS-PAGEとwestern blottingでタンパク質の発現レベルをみることを学んだ。電気泳動などは、これまでの実験や実習でも行ったことはあったが、今回は、材料を保管庫から取り出す手順、電気泳動のゲル作りなど、実際に研究をする時に行わなければならない細かい作業も体験することが出来た。2週目は、マウスの脳スライスを用いて免疫染色やHE染色を実際に行い、病理で見るようなスライドを作成した。また、マウスの脳を取り出す様子も見学させてもらった。病理スライドが出来るまでの一連の流れを初めて実体験し、かなり時間のかかる大変な作業だと感じたが、一方で、結果が鮮やかに出るという病理の面白みも分かった。3週目は、マウスのテールからDNAを抽出し、genotypingを行って、それぞれのマウスの遺伝子型を調べることを学んだ。途中で、自分たちがgenotypingで扱っていた遺伝子を欠損したマウスで皮膚がんを発症したものの解剖を見学し、マウスの全身解剖のやり方も学んだ。4週目は、研究成果のスライド作りを通して、結果の画像解析をしたり、結果について考察したりした。実験の待ち時間などには、その時に担当してくださっていた先生に、研究者とは実際どのようなものなのか、研究者を目指す人は何をすべきなのか、研究者の就職状況についてなどいろいろ聞くことが出来た。
  
  この研究室での4週間で、多くの研究手法を学んだことはもちろんだが、研究に必要となる技量(実験の待ち時間がなるべく少なくなるように実験を組むなど)や、研究をするにあたっての苦労、また、その苦労があってなお研究を続けようという気持ちになるほどの研究の楽しさなどを、ほんの一部ではあるが学ぶことが出来たことは、私の将来にとって大きかったと思う。

 

  ■生体防御医学研究所 脳機能制御学分野のウェブサイト

 


研究室配属を終えて
医学科3年 野村 政爾

  
  僕は、生体防御医学研究所の免疫遺伝学分野に配属され、4週間の研究室生活を体験させて頂きました。なぜこの研究室を選び、どのようなことをして、何が得られたのか、この3点について簡潔にまとめたいと思います。

  まず、この研究室を選んだ理由です。僕は将来、医学博士として研究活動を行うつもりですので、この研究室配属期間では、興味を持っている分野で、かつ、しっかりと経験が積めるような研究室に行こうと思っていました。免疫系については予てより、主役となる細胞たちの分化、働きの複雑さ、多様さに興味を惹かれ、深く勉強してみたいと思っていました。また、生医研はがっつり研究させられるぞ、と先輩方から聞いていたので、それならば生医研に行ってやろう、と思っていました。以上を踏まえ、研究室紹介の講義を聞いたり、HPを調べる中で、免疫遺伝学分野という所にお世話になろうと決めました。

    次に、4週間の配属期間の中で実際に行ったことについてです。3週間は、平日朝10時から夕方17時まで日替わりの実験メニューをこなしました。内容は、プロトコールに沿って免疫細胞を解析していくことがメインでした。マウスから免疫細胞を単離し、抗体染色をして顕微鏡で動きを観察したり、表面抗原を定量してみたり。また、好中球の産生する活性酸素を定量してみたり、NK細胞のがん細胞傷害性を視覚化してみたりもしました。最後の週は実験結果をまとめ、最終日に研究室のみなさんの前でプレゼンテーションを行いました。

   免疫細胞を解析していく中で、DOCKⅡの働きも同時に解析しました。このDOCKⅡという分子は免疫細胞が遊走したり、抗原を貪食したりして仕事を行う上で重要な分子で、この研究室がメインで扱っている分子です。例えば、好中球の遊走を見る実験の中では、このDOCKⅡの働きを阻害すると好中球の動きが止まることが観察できました。他にも様々な免疫の場面に関与しており、免疫系のしくみの理解や、治療応用も期待される分子です。

   複雑なシステムである免疫系は、一朝一夕には把握して理解することはできませんが、個々の現象を実際に手を動かして目で見て確かめていき、プレゼンとしてまとめていく中で、少しはその概観をつかむことができたかなと思っています。また、免疫の世界は、その複雑さゆえに依然として未解明であることも多いです。それらを日夜研究し、議論する研究室の生活に触れ、アカデミアここに極まれりと感慨を覚え、将来研究を行う勇気を得ました。また、基礎的な実験を行いながら、同時に、その結果が生体にとってどういう意味を持つのか、実際の治療にどう活かされるのかを考える、その姿勢は今後に活かそうと思いました。

  最後になりましたが、毎日僕に付き合っていただき、丁寧に指導していただいた研究室の皆さん、本当にありがとうございました。

 
(左)緑色に染めたガン細胞と、赤色に染めたNK細胞。殺されたガン細胞は消えていく。
(右)死してなお抗原を絡めとり、傷害する好中球(赤く染まっているのはクロマチン線維)

 

  ■生体防御医学研究所 免疫遺伝学分野のウェブサイト

 


研究室配属感想文
医学科3年 升井 三夏
  
  今回私は、神経病理学研究室にお世話になりました。私は法医学に興味を持っており、剖検によって死因等を解明するという法医学との共通点と、元来持っていた神経系への関心もあって、神経病理学の研究室を希望し、晴れて希望どおり配属されたという次第です。

 

 
 

  配属中は、学生がそれぞれ実際の患者さんの症例を担当し、試料や標本を用いて患者さんの病気について詳しく読み解いていきました。配属初日に担当症例を決め、私はMELAS(ミトコンドリア病のひとつ)の症例の担当になったのですが、その時点では「MELASってなんぞや?」という状態でした。まず初めに行ったのは、MELASについて学びつつ、患者さんの症状や検査所見等と照らし合わせていくことでした。まだ臨床的な学習をあまりしていないこともあり、はじめはちんぷんかんぷんでしたが、岩城教授や担当の司城先生より非常に丁寧なご指導を頂き、MELASの典型的症状や、症例の方に当てはまる所やそうでない所について理解することができました。
  次に、実際の組織標本を顕微鏡で観察し、組織学的に何が起こっているのかを確かめました。これも、先生方に手取り足取り教わりながらでしたが、各部位の組織を観察することで、それぞれの障害が臨床症状に結びついているというのが分かり、非常に興味深いものがありました。そして、研究室配属を終えるころには、友人に「ミトコンドリア病、特にMELASについては私に聞け」と豪語するほどに、疾患についての理解が深まっていました。症例についての学習以外にも、ブレインカッティングの見学や免疫染色等をさせて頂き、神経病理学に関する基本的な知識も培うことができました。
  

  研究室配属を通しては、普段できないことを色々体験できたのですが、なかでも実際の患者さんの症例を担当できた、というのがよかったです。患者さんは一つの病気だけを持っている訳ではないし、同じ病気でも同じ症状が出るとは限らないのだと実感し、広い視野を持って患者さんを診ることの大切さを学びました。また、随所で知識不足を痛感し、もっと勉強したい、とこれからの学習に対するモチベーションもぐっと上がりました。3年次研究室配属でどこを希望するか迷っている後輩がいたら、「神経病理学、いいぞ」と、声を大にして言いたいと思います。

  約3週間と短い間の研究室配属でしたが、研究室の方々は、自分が本当に研究室の一員になったかと錯覚するほど、温かく接してくださいました。最後になりましたが、研究室の皆様、本当にありがとうございました。

 

  ■神経病理学分野のウェブサイト 

 


研究室配属感想文
生命科学科3年 難波 里子
  
  

  今回の研究室配属で、私は脳の神経疾患に強い関心があったので、臨床神経生理学教室で研究をさせていただきました。研究室では、ヒトの脳を磁気刺激した際の脳活動の変化についての研究を行いました。先生には実験の方法やデータ処理、英語論文の読み方など多くのことを教えてもらい、さらに抄読会や研究発表を経験しました。

 

 
 

  研究では、ヒトの脳に対し磁気刺激と電流刺激を行った際の運動誘発電位の振幅の変化を観察しました。はじめのうちは、実験のプロトコールが非常に複雑で実験内容を理解するのに苦労しましたが、抄読会に向けて英語論文を読むうちに次第に内容を理解することが出来ました。また、被験者の眠気を取り除くことや、毎回の刺激を同じ条件で行うための条件設定の細かさには大変驚かされました。さらに、先生には研究を行っていく上での重要な考え方を教えていただきました。実験を行う前から効果がないと決めつけてしまうことの恐ろしさを知り、既成の概念にとらわれず広い視野で考えることの大切さを学ぶことが出来ました。

  抄読会では、関連する分野の英語論文を読んで、スライドにまとめて発表を行いました。専門用語が多く理解するまでには多くの時間を費やしましたが、論文の構成や焦点を当てるべき場所などがあることを知り、次第に理解するスピードが上がり自分が成長していることを実感しました。また、他人がやっている研究を知ることで、自分の研究を見直したり、次の実験に向けたアイデアが得られたりすることが分かり、世界中の論文を読むことの大切さを認識しました。  

  最後の研究発表では、1か月間で行った研究について英語でスライドを作り発表を行いました。研究で行った内容を英語で簡潔に表現することや、聴衆に伝わるように論理を組み立てることの難しさを知りました。また、質疑応答では自分が気付いていなかった点についての指摘を受け、至らない点に気付かされ大変勉強になりました。

  今回の研究室配属では、結果が思うように出ないことの難しさとともに、予想外の結果が出たときの面白さ、論理が繋がったときの喜びなど多くのことを知ることが出来、大変貴重な経験をすることが出来ました。また実際に研究生活を送ることで、将来研究に携わりたいという思いが一層強くなりました。最後になりますが、お忙しいところ貴重な時間を割いてご指導をしてくださった研究室の方々に心より御礼申し上げます。

 

  ■臨床神経生理学分野のウェブサイト 

 


研究室配属感想文
生命科学科3年 喜枝 美月
  
  

  私は今回の研究室配属で、生体防御医学研究所統合オミクス分野の久保田研究室に配属させていただきました。当研究室ではインスリン作用や糖尿病に着目し、「生物学的実験」と「数理解析」の両方を用いて、情報ネットワークを読み解き、細胞のしくみを理解することを目的にトランスオミクス解析を行っています。一般的な生物学実験では分子の同定、挙動などを生物学的手法で発見していきます。しかし、当研究室で行っている生物学的実験を用いた数理解析では私はパソコンが苦手で数理解析など自分にはできないと思っていましたが、実験データに近似するモデルを作ることで生体内現象の根本的な原理を理解することができます。原理が理解できれば、未知の分子の同定や、疾患の予測、さらには疾患の制御(治療)も可能となり得ます。私は、もとより内分泌応答に興味があり、さらにその生体内現象を原理から理解するというスケールの大きさに魅力を感じ、当研究室を希望しました。

 

 
 

  この4週間の研究室配属では、まず初めに先生からPower Pointの資料と課題をいただき、数理モデル作成に欠かせないプログラミングについて一から学ばせていただきました。パソコンが苦手でプログラミングなどこれまで全くしたこともない私でしたが、とても丁寧でわかりやすい資料の説明と、先生や研究室の方々のわかりやすく優しいご指導のおかげで課題を終え、一部ではありますがプログラミングの基礎を理解することができました。課題が終了しプログラミングの基礎について学んだ後には、先生から実験の説明と実際の実験データを受けとり、肝臓と末梢器官におけるインスリンモデルの作成と、シミュレーションによる2型糖尿病の発症メカニズムの検討を行いました。具体的には、10日間で学んだプログラミングの基礎知識を用いて、まずインスリン投与による血中インスリン時間変化データと手本となるモデルから、単純化したモデルを作り、健常ラット2型糖尿病モデルラットの特徴を比較。そして次に、そのモデルを用いて健常ラットと2型糖尿病モデルラットのデータを比較するため、様々なパラメータを一致させて糖尿病の発症メカニズムについて検討しました。

  4週間という短い期間でしたが研究室配属でプログラミングを一から学び、簡単ではありますがモデル作成とシミュレーションによる数理解析を行うことができました。自分でプログラミングを組み立てる中でうまくいかず立ち止まることも多かったですが、先生の適切なアドバイスのもと実験の組み立て方や、データの検討の仕方、考え方、数理解析において考慮すべきことなど、様々なことを学ぶことができました。この研究室配属は4週間という短い間でしたが、多くのことを学ぶことができた充実した4週間でした。これから研究に携わる中で、きっと今回の経験は役立つと思います。  

  最後になりますが、この研究室配属の4週間ご指導いただいた久保田先生を初め研究室の方々に心より御礼申し上げます。ありがとうございました。

 

  ■生体防御医学研究所 統合オミクス分野のウェブサイト

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