入試案内

入学を志す諸君へ

九州大学医学部医学科を志す君たちへ

九州大学大学院医学研究院 医学教育学講座教授
 新納 宏昭

 この文章を読んでくれている君たちは、何故、医学部医学科を目指すのだろう?きっと、動機は人それぞれだろう。例えば、身近な人が医師だったから、病気の人を救いたいと思ったから、また、社会に貢献したいと感じたから。あるいは、学力が高くて周りに薦められたという人もいるだろう。

 そんな君たちは、晴れて入学し、医学・医療を学び進めるにつれ、この学問の広大さ、奥深さ、また、医師の多岐に渡る進路に驚くかもしれない。極めて基礎的な研究を行う分野から、臨床(診療)医学と密接に関連する分野、また、法医学や公衆衛生学といった社会に直結する分野、精神医学分野などある意味で哲学的なものを扱う分野まで、とても幅広い。それゆえに、自身の適性に合った進路を見つけられるとも言えるが、その反面、医学というものを学び極めるには相当の覚悟が必要である。率直に言って、難関受験を突破したいという動機のみでは、入学してからの学びはかなり困難なものになると思う。

 もしここまで読んでくれたなら、少し受験勉強の手を休め、医学科の教育内容や卒業した後の進路について知って欲しい。そして、医学科合格を最終目標とするのではなく、その先に照準を合わせることで、医学科での学びのモチベーションとするとともに、学生時代を最大限に有意義に謳歌して欲しいと願う。

 九州大学の学部教育は、「基幹教育」と「専攻教育」からなる。1年次は、伊都キャンパスで基幹教育を学ぶ。基幹教育とは、新たな知や技能を創出し、未知なる問題をも解決していく上での幹ともなる「ものの見方・考え方・学び方」を学ぶ教育である。もしかすると、この一年間は医学学習への意欲を持て余す人もいるかもしれない。しかし、医師は生涯に渡り、日進月歩する医学・医療の知識を常に吸収していく必要がある。ぜひこの一年間で、自ら学び続ける『アクティブ・ラーナー』としての素地をしっかりと身につけて欲しい。また、もし医学に触れる機会が欲しいのなら、病院キャンパスでは各研究分野の主催する「ウォーミングアップセミナー」を不定期で開催しているので参加してみるのも良いだろう。

 医学科での専攻教育の科目は、大きく系統医学、総合医学、社会医学、国際医学に分類され、2年次より各科目の学習が始まる。学習目標は、「カリキュラムポリシー」に載せているのでそちらを参照して欲しい。最適な学習が提供できるようにカリキュラムの見直しは常に行われている。
 各年次の学習の概要を簡単に紹介したい。2年次では、人体の構造と機能・発生と再生などの基礎医学を学びながら医学入門を通して医学を学ぶ動機付けを行い、3年次では、疾病と人体の反応や薬剤の作用メカニズムといった臨床科目を学び始める。また、3年次の前期では研究室配属というプログラムも準備されており、希望する研究室にて1ヶ月間研究生活を体験する。4年次になると、法医学、疫学、医療情報学といった科目を通して医療の社会的視点も学び、さらに5年次から始まる臨床実習に向けた医療面接、身体診察、手技を学ぶ。また、臨床実習を開始するには、4年次の後期で共用試験をパスしなければならない。共用試験は、基本的臨床能力を客観的に評価する実技試験OSCEと、医学的知識の総合的理解度を評価するCBTと呼ばれる2つで構成され、医師になる前の仮免許試験のようなものと考えていい。
 総じて、医学部医学科での学習は、予め答えが決まっている受験勉強などとは異なり、学ぼうと思えば際限がない。書籍、論文などを読み進め自分なりに深めていくことで、興味の沸いた分野に対して、より面白さを感じることができるだろう。
 5、6年次の臨床実習は診療参加型の病院実習で、複数の診療科の外来や病棟において、白衣を着て患者さんや他の医療スタッフと実際に接し、医学知識、技能、対人コミュニケーションを体得し、医師としてのプロフェッショナリズムを実践的に学ぶ。臨床実習では、自ら診療の一部に関わることで臨床医としての使命ややりがいを実感し、さらには視野に入れていなかった診療科への興味が沸くなど、4年次までの学習とは違った学びを得ることができるだろう。また、臨床実習は九州大学病院のみならず、地域や海外の医療機関で行うこともでき、九州大学ではアメリカ、ドイツ、韓国の大学でも実施している。
 6年間の学生生活の終わりに医師国家試験にパスすると、研修医として病院に勤務することができる。勤務先については研修を希望する病院を自ら選択し、病院と学生の希望が合致するところを選定するマッチングシステムにて決定する。研修医としての2年間(初期研修)では、様々な診療科をローテーションし基本的診療能力を身につける。その後、専門医取得を目指し希望する診療科を決め、後期研修(専門医研修)を通して医師として成熟していくことになる。
 病棟での実習、研修の中で実感するだろうが、医師は、多職種の医療スタッフと協力しチーム医療の中で重要な役割を果たし、患者さんのニーズにあった最適な医療を提供する必要がある。この点で、診療において患者さんへのインフォームド・コンセントは重要視されている。医師は人の中で活躍していく職業のためコミュニケーション能力は最も重要である。学生時代には早期から部活・バイトなどの課外活動を通して、医学部内外問わず、積極的にたくさんの人たちと接点を持ち、楽しみながらコミュニケーション能力を身につけて欲しい。

 ここで、研究のことにも触れておきたい。医学科を卒業した後、多くは臨床医としての進路を選択するが、一方、基礎研究の道を歩む研究者(研究医)もいる。ヒトの体について多方面から学んだ者は生命医科学分野の研究者として貴重な存在であり、加えて、本物の基礎研究は必ず応用研究に繋がるということも事実である。また、現代における最先端医療開発は、最先端基礎研究と臨床の融合であるので、将来臨床医として歩む者もぜひどこかの時期に研究を行う機会を意識して設けて欲しい。例えば、大学院に進学するのも良いかもしれない。日本のみならず海外の研究所に留学するのも良いかもしれない。もし早期に本格的な基礎医学研究を始めたければMD-PhDコースがある。これは医学科4年次修了時に休学し、大学院医学系学府医学専攻博士課程に進学し、博士号を取得した後に医学科5年生に復学するものである。臨床に携わる者が基礎研究の世界を深く経験し、それを臨床現場に持ち帰り患者さんの診療に役立てていく、こうしたイノベーションを起こし、医学、医療の発展にぜひ寄与して欲しい。

 最後に、医師として最も大切なことを伝えたい。それは弱い立場である患者さんの味方となり、病気に苦しんでいる患者さんを助けるという、基本的な理念である。臨床では診療行為の実力もさることながら、人間味あふれ社会性に富んだ医師でいる気概を心に留め、病気と闘う患者に寄り添う良き援助者であって欲しい。そして一方で、人の生命に興味をもち、その研究に情熱を燃やし、 積極性と活力をもって医学に取り組み、「人の健康と福祉の増進」という医学の使命を達成して欲しい。
 ぜひ、この文章を読んでくれた君たちの一人でも多くが、九州大学医学部医学科の門を叩き、自身の医学の道を極めてくれることを切に願う。
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