学生生活

2011年06月06日

専攻教育

研究室配属(6年)

 九州大学医学部医学科では将来、保健・医療に貢献し、医科学の発展に寄与できる人材を育成するため、6学年の4月から5月にかけて基礎・臨床研究室配属学習を行っています。 この学習では、医学の研究過程を追体験することや医学上の問題を発見し、解決していく科学的思考力、学習持久力、生命現象に対する好奇心、探究心を養う事を目的としています。今年この実習を終えた学生から2名の感想文をご紹介致します。


 
配属先の分子医科学分野研究室で実習を行う山村さん
研究室配属――医学研究者1年生として

医学科6年 山村 聡


 6年次初頭の2ヵ月間、私は生体防御医学研究所分子医科学分野(以下、中山研)へと希望通り配属され、非常に熱い研究生活を送りました。「熱い」というのには2つあり、中山敬一先生はじめ、スタッフ、大学院生の方々に熱意を持って指導していただいた点が一つ。そしてもう一つ。1年ほど臨床実習に明け暮れていたわれわれ医学生が、しばし臨床を離れ、基礎医学の重要性を再確認し、情熱を研究へと燃やした点です。 


 こと私に関しては、低学年のころから基礎医学への興味が強く、学部3年次末から中山研で実験をおこなっていました。研究室の先生方がこうした学生の受け入れに寛容であること、非常にありがたく思います。研究室配属も含め、漠然とした興味で門戸をたたいた新参者に、手取り足取り実験手法を指導し、実験背景、原理を説明し、論理だった思考法、解釈法を教育する。教わった学生は、かつて知識を詰め込んでいた頃には味わえなかった「手を動かし自分の頭で考える喜び」を実感する。無味乾燥だった遺伝子名、タンパク質、代謝経路などが研究を介して疾患、形態、治療法へとリンクする。「知識と経験による」医学の印象が、多少なりとも「科学的で論理的な」医学という認識へと変化する。そうして、基礎研究がさほど遠くない未来の医学へとつながっていることに思いをはせる――。研究室配属はこうして、科学的理解と論理的思考力を持った医師あるいは研究者が生まれてゆくきっかけをつくっているのだと思います。 


 私の研究はこの2年余り「ユビキチンリガーゼの新規基質候補分子の解析」というテーマでおこなってきました。研究室配属の2ヵ月間は最近同定された新たな基質候補分子の解析をおこないました。講義、実習の傍らで積む研究は3年目に入っていましたが、日々、新たな発見があり、試行錯誤を行い、論究する――こうした研究の魅力をあらためて確認する2ヵ月間になったように思います。そして、このクリエイティブな生活を娯しんでいる自分を再確認したようにも思います。
 中山研への研究室配属は「厳しい」との評判です。しかし、中山研に配属された学生は少なからず、卒後すぐに大学院に進学しています。ミーティング、ジャーナルクラブ(論文抄読会)、分子生物学ゼミなどを通じ、医学研究者1年生としての入学準備が施された影響かもしれません。「楽な」基礎配置ではなかったかもしれませんが、「楽しい」研究室配属ができましたこと、最後ながら中山研の皆さんに感謝します。
 
生体防御医学研究所分子医科学分野のホームページ
 
トカン・ヴラッドさん
研究室配属を終えて

医学科6年 トカン・ヴラッド


 私が6年生の基礎配属でお世話になったのは生化学分野でした。配属前から自身が選んだサイトカインの発現機構に関するテーマをはじめ、5人の先生方の指導のもとで5つの実験をする機会を得ました。最初はすべての実験をこなせるのだろうかという不安があったものの、新しいテーマをもって実験を始める度にその背景にある生物学的な知見と異なる方法論に対する関心がおのずと湧き出て、背景を理解し実験を成功させるための原動力となりました。実験を進めると同時に各テーマに関する論文を読み、先生方と討論しながら短い時間を活用して自分の実験結果を解釈するための知識を習得できました。 


 具体的には、免疫系の細胞であるマクロファージに刺激を加えて臨床でも重要視されるTNF-とIL-6という2つのサイトカインの発現パターンを調べました。そして、同じく免疫系の細胞である好中球を用いて、細胞が化学的刺激に向かって遊走するための形態変化(polarization)についても実験を行いました。好中球は貪食細胞であり、取り込んだ細菌などの異物を食胞の中で活性酸素を使って処理する能力をもっていますが、私は次にこの活性酸素を産生するタンパク機構を培養細胞にトランスフェクションして発現させ、スーパーオキシドラジカルの産生を化学発光法により測定しました。臨床ではこのタンパク機構の変異は慢性肉芽腫症という、好中球の殺菌能が低下し、患者さんが重篤な感染症にさらされる疾患を起こすので、私は慢性肉芽腫症に特異的な変異に焦点をあてて培養細胞に導入し、わずか一塩基の変異によってスーパーオキシドラジカルの産生が抑制されることを確認しました。その他に、異なる臓器におけるタンパク質のalternative splicingをみるための実験と3種類のタンパク質の相互作用を予測するための実験も行いました。 


 研究室の専門分野は生化学ということもあり、分子生物学的な知識に限らずタンパク質の構造や各実験で使用した試薬の性質とプロトコールの細かい原理などを理解することに努め、1ヶ月の間にたくさんの発見がありました。

4週間の基礎配属が終わってみれば大変短く感じました。この短期間でもっとも勉強になったのは研究に対する姿勢でした。研究室では常に活発な議論が行われており、意義のある成果を得るために先生方と大学院生の方々は実験の方法論と結果を絶えず多数の視点から検討して、その正当性と厳密性を高めるための努力を惜しみませんでした。この姿勢は研究分野のみならず臨床の現場でも大変有用であり、私も身に着けたいと強く思いました。

1ヶ月ご指導いただいた先生方をはじめ生化学分野の方々に心から御礼申し上げます。 


九州大学医学研究院 生体制御学講座 生化学分野のホームページ
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