学生生活

2019年08月20日

専攻教育

令和元年度研究室配属(3年生)

  九州大学医学部医学科および生命科学科では、3年次に実際の研究室に配属し、研究生活を経験する実習「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、研究の醍醐味や重要性を認識するとともに、将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚、倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上を目指すことを目的としています。

  本年度、研究室配属を終えた5名の学生の感想文をご紹介します。

研究室配属感想文
生命科学科3年 築山 菜緒

 

  私は生命の始まりである生殖細胞の不思議を追求したいという思いからヒトゲノム幹細胞医学分野を希望しました。論文紹介と成果発表を行うことを目標に1か月間研究の基礎を学ばせていただきました 。配属中はまず性染色体に関する論文を一本読み、実際に二人の研究者と何度もディスカッションをしました。短い期間で内容を理解するのは大変でしたが、性染色体の面白さ、自分が「面白い」と感じたものを人に「伝える」楽しさを味わうことができました。
  また中学生の頃から興味のあった『iPS細胞を使った研究がしたい』と先生にお願いしたところ実験系を丁寧に組んでくださり、iPS(人工多能性幹細胞)を用いた全く新しい研究に一から携わることができました。実際には細胞培養から、クローニング、遺伝子導入など幹細胞を扱う基礎を学びました。1か月かけて自分でプラスミドを準備、細胞内に導入し、最終的に細胞が蛍光を発しているのを確認できた時は本当に感動しました。
  成果発表ではテーマが生殖細胞の体外培養系であったことから倫理面の議論にも時間を割いていただき、自分の倫理観と向き合うことの大切さ、難しさを切実に感じました。
 

  配属を通して特に印象に残っていることは、点と点がつながりひとつの線が見えた時の面白さです。
  ヒトゲノム幹細胞医学分野では研究者の皆さんそれぞれが個別のテーマで研究を行っています。そのため各テーマに関してなんでも質問できる環境がありますし、自分のテーマとつながる部分でディスカッションをする場面も多く見られます。
この研究室だったからこそ、各人のテーマ(点と点)が日々のディスカッションを通じて全体像(線)をなすというサイエンスの醍醐味をじかに味わうことができました。

  私が研究室配属を通じて得た目標は二つです。まず自分が行っている研究の「面白さ」に自信を持つこと、そして「伝え方」を丁寧にアプローチすることです。
  研究内容や論理的な思考ももちろん大事ですが、人に伝わらないことにはディスカッションも生まれません。さらに人に「伝える」ためにはまずは自分が「面白い」と感じることが何より重要だと気づきました。
  私は生殖細胞以外の分野にも興味があるため、生命科学科の大きな特徴である3年後期研究室配属を利用して、自分が自信をもって「面白さ」を「伝える」ことのできる分野を選ぼうと考えています。今回の配属での学び、目標を次の研究室でも生かしていきます。
 

  最後になりますが1か月間ご指導いただいた林先生をはじめ研究室の先生方に心より御礼申し上げます。

  ■ヒトゲノム幹細胞医学分野のウェブサイト

 


研究室配属 感想文
医学科3年 久保田 良晴

 
 

  私は、今回の研究室配属で生化学分野の研究室に約1か月間お世話になりました。
  配属先を希望するにあたり、基礎系の研究室を体験してみようと住本先生の生化学分野の研究室を第一希望としました。生化学・分子生物学の基本を教えていただけるというのも、希望した理由の一つです。

  今回の配属ではまず、ピペットマンの簡単な分解と手入れの仕方を学びきちんと目的の量測り取れるのかという練習と、タンパク質定量の際に使用する検量線の作成を行いました。今までの実習でも何度かお世話になっているピペットマンでしたが、きちんとした操作はあまり意識したことがなく、正しい量とれていたのかかなり怪しいものでした。実験実習を行う際、当たり前のように何々を~μL入れるという操作を行いますが、本当にその量入っているのか、という基本中の基本ですが、とても大切なことを学べたと思います。

  次に、PCRにより遺伝子変異を導入したプラスミドを大腸菌に導入し、増幅させたのち、プラスミドDNAの調製を行い、そのシークエンスの確認を行いました。これらの実習においても、操作の基本だけでなく、何でこの試薬を使うのか?どうしてこの操作で目的が達成できるのか?何が起こっているのか?といった実習、実験を行う際での基本的な考え方について学ぶことができました。
  4週目には、先生方に選んでいただいた論文の発表を行いました。わからない英語に圧倒的に足りない分子生物学の理解と、数ページの論文を読むだけでかなりの時間が必要でした。結果を追うだけでなく、どのような手法で何を行っているのか、実験の結果から本当に筆者らが言いたいことは言えているのだろうか?などいろいろ考えながら読み進めるという、ただ英語を読むだけではない、文献を読む際の姿勢、考え方を学べるとても良い機会だったと思います。

  全体を通して、とても得難い経験のできた4週間でした。私自身、基礎系の研究に少々の興味があったのですが3年生の前期という、医学部生活6年間の折り返し前に、研究室に触れることができとてもありがたかったです。(本当は自分で研究室に足を運べばいいのでしょうが…)
 

  最後になりますが、4週間お忙しい中、貴重なお時間を割いて指導に当たってくださった研究室の皆さまに心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

  ■生化学分野のウェブサイト

 
 


研究室配属感想文
医学科3年 由井薗 慶多

 
 
  今回の研究室配属で私は消化器・総合外科学の研究室に配属させていただきました。私は将来外科系の医者として働きたいと考えております。そのため外科系で臨床に近いことを学ぶことができそうな研究室を希望しようと考え、研究内容でCTの画像を扱うなど臨床において有用なことが多く学ぶことができる消化器・総合外科学の研究室を希望しました。

  今回私が与えられたテーマは生体肝移植においてドナーの筋肉の質と量がレシピエントの予後に影響を与えるかというものです。実際に配属期間中に行ったことは病棟内の電子カルテを用いて、患者のCT画像から筋肉や皮下脂肪を線で囲みデータを取る作業(筋肉の量はWMI、質はIMACを調べました。) を1~3週目まで行い、データ解析を4週目に、研究内容の発表を最終日に行いました。研究内容について配属期間に行ったことは以上のこととなりますが、期間中に研究内容以外にも沢山のことを学びました。具体的には手術で用いる手技である糸結びの練習、臨床現場での注射や手術(肝腫瘍の切除、生体肝移植) の見学、また病棟内で作業をしていたため医者の方々から「英語をしとった方がいいよー」、「研修するなら~」など色々な話を聞きました。配属期間中の毎日普段の授業では学べない貴重なことを学び、体験させていただきました。

  研究室配属を通して1~3週目のデータ取りは同じ作業をひたすら繰り返すため大変でしたが、研究には時間と労力が必要であることを学びました。また、4週目のデータ解析で私自身の取ったデータで女性ドナーのIMACとレシピエントの予後との関連性が見られたときは達成感を得ることができました。研究発表の練習では、1か月間の研究内容について英語のスライドで発表を行い、聞いている方々に研究の内容が伝わるように単語の説明や内容以外の言葉を最小限に抑えるなど、今までの発表では意識していなかったことを指導していただきフォーマルな発表の仕方を知ることができました。また、病棟では研究内容だけでなく、実際の医療現場を見学したり、雰囲気を体験したりすることで将来医者になるための勉強へのモチベーションも高まりました。

  最後になりますが、今回の研究室配属の一ヶ月間お忙しい中ご指導をしてくださった冨山先生を初め研究室の方々に心よりお礼申し上げます。

  ■消化器・総合外科学分野のウェブサイト 

 


研究室配属感想文
生命科学科3年 中村 文香
  
 
 
 
   私は、前期研究室配属で神経病理学研究室にお世話になりました。もともと脳の研究に興味があり、中でもアルツハイマー病などの神経変性疾患系の病気の根本的原因を将来研究したいと考えていたため神経病理学研究室を希望しました。
 

  配属の約3週間、学生1人につき1つの実際の症例を担当します。1週目は与えられた症例の現病歴や検査内容のまとめ、2~3週目は実際にその症例における脳切片の免疫染色と顕微鏡での観察を行いました。今回私はALSという世間でもよく知られている症例を担当しましたが、研究室初日は恥ずかしながらALS(筋萎縮性側索硬化症)とはどのような病気かを全く答えられない程でした。そのため、まずALSの症状の勉強から始まりました。1つの神経変性疾患でも脳神経系、反射経路、血液検査の知識の他にも、脳以外の臓器の知識も症例を読み解く上で必要となり、特に最初の1週間はかなり苦戦しました。しかし、岩城教授や担当の貞島先生だけでなく研究室内の先生方や先輩方にもALSの基礎知識から免疫染色の方法、原理、顕微鏡での神経病理標本の見方まで多くのことを教えて頂いたおかげで、臨床検査に関しても知識が広がり、ALSに対する理解も格段に深まりました。また、研究室を離れて実際に脳の剖検から組織切片の標本を作るまでの作業を全て見学したり、病院での先生方によるCPC(臨床病理検討会)を見学したりと貴重な体験もさせて頂きました。

 

  病理の分野では細胞が異常なタンパク質を含んで縮小、壊死している様子や腫瘍の構成成分や構造まで顕微鏡を使って見られることが、病気の症状を聞くことよりも病気を実際に自分の目で見ている感覚となり面白いと感じました。また、今回1つの実際の症例と長く向き合い深く理解しようとすることで、「この患者さんは虚血性だけど別のALSの人はどうだろう」「この変性の根本的な原因は何だろう」と、どんどん知りたいことが浮かんできてALSへの興味が深まりました。生命科学科はこの先も研究室配属が続くので、この研究室で続けてALSの研究をしていきたいと考えています。
 

  神経病理教室はアットホームな雰囲気の研究室で、研究室の方々も親切で気さくに声をかけてくださいました。最後になりますが、お忙しいところ時間を割いて丁寧に指導してくださった先生方や先輩方に心より御礼申し上げます。3週間、本当にありがとうございました。
 

  ■神経病理学分野のウェブサイト 

 


※研究室配属感想文
医学科3年 井野 雄貴
  
 
神経芽腫細胞の増殖の様子を対数軸目盛りで表現したもの
 
神経特異的マーカー(赤)、 核(青) 
  私はもとより医学研究者になるつもりで九州大学医学部医学科に入学しました。そんな私が3年次研究室配属において配属されたのは小児外科学教室でした。クラスメイトからは私が基礎系の研究室を選択しなかったことを意外に思われましたが、終わった今、この選択は間違っていなかったと胸を張ることができます。


  小児外科学教室を志望したのは、数ある「生命医科学研究入門」での研究内容紹介の中でもっとも私の知的好奇心を刺激したからです。そのときの発表テーマは、小児がんの神経芽腫でした。神経芽腫は、ある日突然スイッチが切れたかのように一斉に身体中から消失してしまうことがあるという不思議な腫瘍です。この性質そのものに興味を抱いただけでなく、どのような方法でこれを解明していくかも気になったため、感想文にアツく志望理由をしたため、無事に受け入れていただくことになりました。

  私はまず神経芽腫に関する基本的な知識を学習しました。そしてそのあと桐野助教と大学院生の下で、『交感神経の分化に関連する遺伝子の発現を制御して神経芽腫の退縮を誘導するような新規分化誘導因子の開発に向けた一研究』が行われる様を体験しました。具体的には神経芽腫細胞の培養と神経特異抗原の免疫染色を行いました。このような具体的な実験手法を学ぶことももちろん重要なことであったのですが、最も重要な学びは別にありました。

  私が小児外科学教室で学んだ中でもっとも重要だと思われることは、研究者を目指す上での私の「視野の浅さ」です。すなわち、ある事実に対して表層の理解で満足してしまい、例えばその事実の持つ意義や背後にある歴史には目を向けないという思考の癖がついてしまっていたということです。

  今回の研究室配属では深い視野をもった実験内容の理解が求められました。私は、実験操作の表面的な意味の理解はできていましたが、今回の実験がどのような背景や意義をもち、どのように手を加えればより良い実験になるかを尋ねられたときに回答に詰まってしまいました。幸い今回は多くのヒントをもらいながら答えにたどり着くことができましたが、これを自力で完遂できるような、研究に必要な論理的思考力は私にはまだないと実感しました。

  このような思考の癖は、桐野先生との対話の中で浮き彫りになりました。厳しい言葉をいただくこともありましたが、お忙しい中そのような対話の時間をとっていただいたことには感謝しています。このように自分では気付けなかった未熟さに気付けたという点で、今回の実習は非常に実りあるものでしたし、対話によって見えてくるものがあるという知見も、今回の重要な学びです。

  以上のように、この4週間は自分に欠けているものを身を持って体験する機会でありました。机上の勉強でこと足りる世界とは全く異なる研究の世界の厳しさを目の当たりにしショックを受けることもありました。しかしその間、小児外科学教室の皆様は私たち学生のことをいつも気にかけてくださり、全体的に見れば非常に楽しい時間を過ごすことができました。
  この場を借りて改めてお礼を申し上げます。ありがとうございました。今後は、深いレベルで考えることをさぼらずに、さらに医学の勉強に励もうと思います。

 
  ■小児外科学分野のウェブサイト

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