学生生活

2021年08月20日

専攻教育

令和3年度研究室配属(3年生)

  九州大学医学部医学科および生命科学科では、3年次に実際の研究室に配属し、研究生活を経験する実習「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、研究の醍醐味や重要性を認識するとともに、将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚、倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上を目指すことを目的としています。

  本年度、研究室配属を終えた6名の学生の感想文をご紹介します。
研究室配属感想文
医学科3年 伊藤 悠介
 
 
   今年度の研究室配属において、臨床薬理学分野に配属させていただきました。研究室では主に、細胞性粘菌の分化誘導因子であるDIF-1が様々な疾患へどのような影響を及ぼすかを研究しています。DIF-1はがん細胞の成長や増殖、並びにそれを助ける周囲の線維芽細胞との相互作用を抑制するという仮説を立てた上で、私は特に乳がん細胞株を用いて実験を進めました。DIF-1の作用には不明な点も多く、研究を進展させることで新規治療薬の誕生に期待のかかる分野です。
  
   乳がん細胞はタンパク質PD-L1を細胞膜表面に発現していて、これによってリンパ球の免疫反応から逃れます。主にこのPD-L1の発現にDIF-1が作用すると考えられるため、SDS-PAGEなどの手順を経てPD-L1の発現を観察します。配属から間もなくは、研究内容に関する知識や実験の技量については全くの素人の状態でしたので、まずはこのような作業を覚え、追いつくことに精一杯でした。研究室の先生方の懇切丁寧な説明もあり、何とか進められるようにはなりましたが、実験結果が期待に反することも往々にしてありました。いくら手順を正確にこなせたとしても、明確な答えの得られる課題ではないことを痛感しました。得られた研究結果を精査し、そこから次の実験でどのように条件を変えれば新たな結果を得られるか考慮し再び自ら計画を立てるという、研究の最も根本的な姿勢を私は得られたと考えています。
  
   実験だけではなく期間中は研究室のミーティングにも参加させていただきました。メンバーが自分の研究結果からの知見を共有する場です。ここで私は抄読した論文の内容と、自分の研究成果について発表しました。今回の研究で初めて英語論文を手にし、読解はかなりの苦労を伴うものでした。しかし研究に関わる内容であったので、自分の行う研究の知識をより体系化することができました。また論文を読み進めるうちに、論文の中でさえまだ明確になっていないことが多く存在することに気が付きました。論文は正しいことを述べているとは限りません。自分の研究と引き比べ、どこが不明瞭で、自分たちは何を明らかにする必要があるかを検討する重要性を感じました。
   

   
 
同じくミーティングで行った研究成果の発表も、論文の論理構成と形式が役に立ちました。自分の研究成果を聞き手と議論するため、研究内容を伝える順序とフォーマットを身につけられたからこそ発表できたと考えています。有意性の高い実験結果は表れませんでしたが、質疑応答を通して他の先生方の知見も共有することができ、限られた期間の中で自分の手だけでは届かなかった領域へと議論を深めることができました。
  
  感染症の拡大により配属が実施されるか心配していましたが、結果として多くの経験と知識を得ることができました。研究室の皆様もお忙しい中、貴重な時間を割き私を受け入れ指導してくださったことに感謝申し上げます。
研究室配属感想文
生命科学科3年 粟田 夏海
 
 

   今回の配属で、私は生体防御医学研究所・免疫ゲノム生物学分野の馬場教授の研究室にお世話になりました。免疫は、わたしたちの体をウイルスや細菌の感染から守ってくれる防御機構として日々活躍しています。しかし、何らかのきっかけで防御機構であるはずの免疫が異常な働きをすることがあり、そうして起こるのがアレルギーや自己免疫疾患などです。私はそのような自己免疫疾患の原因に興味があり、そこに関わるB細胞をメインに研究を行っている免疫ゲノム生物学分野の研究室に配属を希望しました。
   
   配属期間中、私は野生型のマウスとある遺伝子をノックアウトしたマウスの免疫細胞の比較をメインに行いました。4週間の配属期間中のうち最初の1週間は、メインの実験を行うために必要な知識や実験操作について学びました。具体的には、マウスの扱い方や臓器の取り方、細胞の解析の仕方などを習いました。新型コロナウイルスの影響で2年生以降の実習がほとんどオンラインでの実施だったので、今回の配属まで実験の経験はほとんどありませんでしたが、指導担当の田中先生に一から教えていただいたおかげで、メインの実験ではスムーズに自分の手でデータを取ることができました。
   
   また実験と並行して論文の読解も行い、配属4週目に行われた抄読会でその内容を研究室のメンバーに向けて発表しました。初めて英語論文をじっくり読んでみて、丁寧に読めば自分でも内容を理解する事ができると分かり、それまでなんとなく抱えていた英語論文に対する抵抗感が払拭できたことは大きな収穫だったと思います。しかし抄読会の発表では、質疑応答で大学院生の方々からたくさん指摘を受けて、自分の至らない点が多く発見できました。最も多く指摘されたのは実験の方法や、データの評価方法について理解が浅いということでした。今後論文を読む際は、結果だけでなくその結果がどのようにして生まれたのかということまで考えを巡らせ、実験方法や評価方法まで細かく読みたいと思います。
   
   週1で行われた馬場教授との個人ミーティングでは、まず1週間取り組んだ実験について方法から結果まで自分で説明します。その際に、自分が正しく理解できていなかった点やデータの見方などを指摘していただいたので、実験内容を着実に理解することができました。また実験内容以外にも、論文の読み方やプレゼンの仕方、研究内容のまとめ方なども丁寧に指導していただき、大変勉強になりました。
   
   最後に、配属を受け入れてくださった馬場教授をはじめ、お忙しい中実験の指導をしてくださった田中先生、研究室の皆様、本当にありがとうございました。

FACSで解析した野生型マウスの脾臓のリンパ球

変異型マウスのジェノタイピング
 
研究室配属感想文
生命科学科3年 渡部 真尋

   今回の研究室配属で、私はプレシジョン医療学分野にお世話になりました。
プレシジョン医療という患者さん一人一人にあった個別の治療を検討する分野で癌に関する研究も行っているということに興味があり、今回この研究室を希望しました。
   
   本年度は新型コロナウイルスの影響により3年前期の通常の講義のほとんどが遠隔開催となる中、研究室配属はマスク着用の感染対策を取った上で4週間の実習となりました。
   
 
   研究室では各自に割り当てられた論文の読解や、抄読会、研究室メンバーが行なっている実験の見学や関連する実験を行いました。しっかりと論文を読むのは初めてで、知らない薬剤や実験方法がある度に調べて読み進めました。特に、この論文は研究室メンバーが行っている実験や私が行った実験に関するものだったため、その分野の知識を深めることができました。論文を読んでいく中で気づいた今後の課題は、英語の和訳に気を取られて内容の理解が疎かになっていることです。今回は抄読会が行われたことでこの課題に気がつき、さらに論文内容の理解を深める機会となりました。見学ではCETSAやnCounterなど、講義では聞いたことのない実験を見ることができました。実際の実験では私は化合物の結合による蛋白質の熱安定性変化を調べて標的結合の測定を行うCETSAという手法を行いました。研究室配属当初は研究室の方々が行っている実験や、機械、専門用語など知らないことがたくさんありました。そんな私に丁寧に説明してくださったので、実習が終わるころにはこの実験も一人で行うことができるようになりました。また、他研究室の講義にも参加する機会があり、自分の配属分野以外の分野についても知ることができ、貴重な機会となりました。
   
   プレシジョン医療学分野に限らずほかの研究室でもラボの見学は歓迎していると思うので少しでも興味がある方は3年次の配属に限らず先に行ってみるといい機会になると思います。
   
   最後になりますが、お忙しい中受け入れてくださった先生方に感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
研究室配属感想文
医学科3年 福川 智巳

  今回私は、神経病理学研究室にお世話になりました。様々な臨床像を呈する神経疾患がどのように診断されるのか興味を持ち、こちらの研究室を希望させていただきました。
  神経病理学研究室は神経疾患の病理形態学的研究を基盤とし、生化学的及び分子生物学的手法を加えて、その病態解析と治療法開発を目指されています。また、病院業務として神経疾患の生検診断と剖検を担当されています。今回の実習では、学生一人一人が実際の剖検症例の標本を担当して、組織切片の染色から診断までのプロセスを学び、カンファレンスでの発表を行いました。また、実習期間中に抄読会や脳標本の切り出しの見学にも参加しました。
  
  私はALS(筋萎縮性側索硬化症)の症例を担当しましたが、予備知識が全く無い状態だったので、まずはALSとはどんな病気なのかを学んでいきました。神経系のどの部位が障害されて各々の症状が現れるのか、他の運動ニューロン疾患とどのようにして鑑別するのか、電気生理学的検査ではどのような様相を呈するのかなど、調べれば調べるほど疑問が尽きない状況でしたが、岩城教授や担当の八木田先生を始め、研究室の皆様が丁寧に教えてくださり、ALSについての理解を深めることができました。特に、標本を観察し病変を探す過程では、逐一確認をしてもらいながら進めていったのですが、正常からどの程度かけ離れているのか、異常な構造物はどれかなど沢山指導していただきました。異変のある所や比較的正常に保たれている所が、臨床的な徴候に対応していることを自分の目で確かめることができ、また、異常な蛋白質の蓄積がはっきりと見て取れて、とても興味深かったです。
  
  また、講義で聞いたことしかなかった免疫染色を実際に行えたことが非常に良い経験になりました。詳しく解説もしていただき、神経病理学的診断の手技について理解できたと思います。そして、ピペットマンの扱いや封入が思いの外難しく、何度か失敗してしまったのですが、出来上がった標本を観察して目当ての細胞が染まっているのを見た時は、とても嬉しかったです。
  
  抄読会に参加して、そして自分で論文を読んでみて痛感したのは、英語力の大切さでした。日本語の論文も参考になりますが、調べ物をする際にも英語の論文を検索してみるとぐっと幅が広がりますし、知識の更新をし続けていくためには沢山の論文を読む必要があることを考えると、より一層英語を頑張らなくてはいけないと思いました。
  
  そして、配属中に非常に多くのことを学べたと同時に、神経疾患にはまだまだ不思議な部分があることも分かりました。他の学生さんの発表を聞いている間、神経疾患の多様さに驚かされてばかりでした。また、今回私は神経系に関わる部分を主に学習していき、それだけでも個人的にはかなりやり応えのある内容だったのですが、実際の患者さんは複数の合併症を起こしていることを考えると、それらを正確に診断するためには遥かに多くの知識を身につけなければいけないと感じました。弛まずに知的探求心を持ち続けることの大事さを再確認できたと思います。
思えば、新型コロナの影響で前期の講義はほとんど自室で受けていて、受動的な学習になっていたところ、疑問に思ったことをすぐに質問できて、それに対する明瞭な答えと派生する様々な事柄を教えてくださる環境は非常に恵まれていて、得難いものでした。さらに、研究室の先輩方や先生方とお話しすることはとても楽しく、あっという間に4週間が過ぎていったような気がします。
  
  最後になりますが、お忙しい中、私たちを温かく迎えてくださった研究室の皆様に心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。
研究室配属感想文
生命科学科3年 平居 優一
 
 
   私は、医学研究院ウイルス学分野でお世話になりました。当研究室では主に麻疹ウイルス感染の分子的なメカニズムを麻疹の病態からアプローチして解明しようとしています。私自身は生物と非生物の中間的な立ち位置にいるウイルスの存在自体に関心をもっていたので、ウイルスの研究はどのように行われているのかを知りたくて当研究室への配属を希望しました。
   
   麻疹の症状としては主に皮疹を伴う熱性疾患があるのですが、まれに脳内で感染することがあります。しかし、脳内でどのように感染伝播するかはまだはっきりとは分かっていません。そこで、私が関わらせていただいた研究は、脳内で麻疹ウイルス感染が起こる際に神経細胞に発現している宿主因子(ウイルスが細胞間を伝播するのに重要な因子)とウイルスのエンベロープ上の糖タンパク質とがどのように相互作用しているのかを解明しようというものです。
   
   配属されてからは実験と並行して実験の内容に直接関わってくる論文を読み進めました。初めは、論文に分からない単語も多く読み進めるのに苦労しましたが、分からない単語も一つずつ調べながら読めばある程度は理解できると分かって少し感動しました。指導教員の方からは論文の中で各実験がどういった経緯により行われているのかを意識しながら読むことが大切だと学びました。実験は、1周目はPCRによる改変遺伝子のクローニング、2週目はウエスタンブロッティングによるクローニングした遺伝子からのタンパク質発現確認、3週目はそのタンパク質を用いた膜融合assay(細胞同士の融合を確認する実験)を行いました。どの実験も原理や目的を事前に教えていただいたため、単純作業が多いところでも作業の意味を考えながら集中して実験することができました。3週間の実験を終えて結果が出た時には、予想していなかった結果も出てきて、新たな考察が生まれてくる感覚が研究に関わっていると実感できて楽しかったです。
   
   配属最終日には、読み進めた論文の紹介と体験した研究の発表を、パワーポイントを使ってしました。論文紹介も研究成果発表も自分には初めての体験だったため緊張しましたが、原稿を用意して発表練習を事前に行うことで、無事に終えることができました。
   
   最後になりますが、研究室の方々の丁寧なご指導により、非常に濃い4週間を過ごすことができました。本当にありがとうございました。
研究室配属感想文
医学科3年 別宮 良輔

  研究室配属では、基礎放射線医学分野の中津准教授に4週間お世話になりました。昨年の研究室配属はオンライン形式だったそうなのですが、この分野に配属されることになったのが僕だけだったこともあり、最初にオンラインと対面のどちらの形式がいいかを選ぶ権利をもらいました。2年のときに行われた実験はほとんどオンライン形式だったのですが、対面形式と比べて現実味がなく、あまり身についた感じがしなかったため、対面形式を選択しました。
  
  研究室には10時から18時くらいまで滞在していて、実験の合間には英語の論文を読んだり、実験内容をまとめたりしていました。提出用のWordやPower Pointは空き時間に少しずつ完成させていたので、家でしなければならないことはありませんでした。実験の内容は2020年にノーベル化学賞を受賞したことで有名なCRISPR/Cas9を扱うものでした。2年のときに生化学の講義で学習したとはいえ、僕はこの仕組みについてあまり理解できていませんでした。しかし、実験開始前にCRISPR/Cas9について詳しく説明してくださったり、実験中にわからないことがあっても聞きやすい環境を作ってくださったりして、実験で何をしているのか把握することができ、有意義な時間を過ごすことができました。
  
  実験は、新しい研究に挑戦していたこともありこちらが望んでいたような結果が得られなかったこともありましたが、中津准教授とともに実験結果を期待する過程はとても面白かったです。中津准教授がこちらのレベルに合わせて会話をしてくださったこともあり、実験中も楽しく作業をすることができました。また、実験の合間には2020年にノーベル化学賞を受賞したJennifer DaudnaによるCRISPR/Cas9に関する30分ほどのスピーチを15分ほどにまとめるという課題も行いました。僕は英語があまり得意ではないので初めて聴いたときは意識が朦朧としてしまいましたが、なんとか課題を達成した後はスピーチを理解できた達成感を得ることができ、将来必要になると思われる英語に対する拒否反応がかなり軽減されたように感じました。このような機会がないと英語のスピーチを聴くことはなかったと思うので、良い経験になりました。
  
  研究室配属の最終日に行った研究成果の発表では、「スライドに書いてある内容は省略せずにちゃんと説明する」「根拠のない推測はしない」といった研究者としての心得のようなものも聞くことができて非常に参考になりました。4週間を振り返って、無知な僕に対して親切に指導してくださった研究室の皆さんに心から感謝しています。
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