学生生活

2023年08月23日

専攻教育

令和5年度研究室配属(3年生)

  九州大学医学部医学科および生命科学科では、3年次に実際の研究室に配属し、研究生活を経験する実習「研究室配属」がカリキュラムに組み込まれています。これは、研究の醍醐味や重要性を認識するとともに、将来研究者として活躍するにあたり、早期に実際の研究分野に身を置き研究チームの一員として働くことにより、研究者としての自覚、倫理観の養成や、研究室での基本的な知識やルールを学ぶこと、また、協調的な学習環境の中で問題解決能力を高め、生命医学領域に対する学習意欲の向上を目指すことを目的としています。

  本年度、研究室配属を終えた6名の学生の感想文をご紹介します。

研究室配属感想文

医学部生命科学科3年 東谷航平

私は今回の研究室配属において神経解剖学分野で1ヵ月間お世話になりました。神経解剖学教室は脳と心を理解することを念頭に掲げています。私は1ヵ月間の研究室配属期間で、抗がん剤の副作用である鬱を抑えることに関する研究をしました。

抗がん剤―がんに罹患すれば必ず使用する薬剤ですが、これは鬱という思いがけない副作用をがん患者に与えます。鬱はその後の自殺につながります。つまりがん患者は自殺する割合が一定数存在し、臨床現場ではこのことが問題になっているそうです。今回私が行った研究はここを起点として、抗がん剤に別の薬剤を投与して鬱を打開できないだろうかという趣旨でした。

具体的な内容を紹介します。臨床現場を模して3群のマウス(コントロール群、抗がん剤投与マウスと抗がん剤+クレマスチン投与マウス)を作成しました。この3群間に差異が認められれば「おお!」です。差異が無ければ「ええ....」です。配属期間中はこの3群のマウスに対して5つの行動実験と、脳の海馬のスライス切片に含まれるオリゴデンドロサイト、ミクログリアのカウントを行って比較することで差異が認められないか、と睨めっこする毎日です。体感では「ええ....」の方が多くて、その間に複数回の「おお!」があった気がします。これも実験のうちですね。そしてとにかく研究室の方の指導が手厚かった!毎日朝の9時から16時まで、質問すれば必ず答えてくださり、近くで見ていただけました。特に手技が慣れていないうちのマウスの注射、画像解析の手順、免疫染色でお世話になりました。本当に感謝しかありません。ありがとうございました。

生活的な観点では、研究室の毎週月曜日が印象に残りました。研究室の方々は月曜日の10時30分に全員掃除をすることから一週間を始めていくのを、私も一員として参加していた時は「自分も研究室の一部として動いている」という一体感を感じることができました。小学校のような雰囲気が好きなんですかね。いやでも、研究室の雰囲気は本当によかったです。静かプラス穏やか。和やかで過ごしやすかったです。カンデルの輪読会では全員が顔を突き合わせて一つのジャーナルに意見しあう、熱心な姿も見ることができました。

最後になりますが、お忙しい中、丁寧な指導をしてくださった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。温和な雰囲気の研究室で楽しく研究することができました。本当にありがとうございました。


研究室配属感想文

生命科学科 尾崎伶

今回の研究室配属で、私は医学研究院ウイルス学分野でお世話になりました。当研究室では麻疹ウイルスが神経病原性を発揮するメカニズムについて研究を行っています。私はウイルスがどのように病原性を発揮するのかについて興味を持っていたため、当研究室への配属を希望しました。

麻疹はモルビリウイルス属の麻疹ウイルスによって引き起こされ、主に発疹や高熱が見られる急性熱性発疹性疾患です。麻疹ウイルスは上皮細胞や免疫細胞に感染しますが、まれに神経細胞に感染し亜急性硬化性全脳炎(SSPE)という神経変性疾患を引き起こします。これには神経細胞に発現している受容体と麻疹ウイルスのエンベロープ上の変異したタンパク質との相互作用が関わっています。今回の研究室配属では主にその相互作用について研究を行いました。

今回の配属では、PCRによる改変した遺伝子のクローニング、電気泳動、DNA抽出やプラスミド抽出、トランスフェクション、蛍光顕微鏡での観察を行いました。実験中は実験ノートを作成して、実験の手順や目的、結果を記録しました。後からノートを見ても実験を再現できるように書くことが実験ノートを書く上で重要だと学びました。そのおかげで、後からノートを見返した際に様々な疑問が浮かび上がり、その疑問について考察することができました。実験の手技については、最初は不慣れな点もありましたが先生の指導をしっかり聞き、丁寧に行うことを心掛けました。その結果、配属期間後半には実験器具を上手く使えるようになり、自分の成長を感じることができました。配属期間中は実験と並行してモルビリウイルスに関する論文を読み進めました。選んだ論文はデータ量が非常に豊富で、データの解釈にかなり時間を要しました。しかし、自分で解釈できないデータは先生と相談することで、データが示す意味を理解することができました。先生からは論文の中のデータ1つ1つに目的があり、そのデータが示す結果が次のデータの目的に関係しているということを意識しながら読むことが重要だと学びました。

配属期間の最後には抄読会と研究成果のプレゼンテーションを行いました。発表の準備はしっかり行いましたが、本番では自分の理想通りには上手くいかず、発表の経験不足を痛感しました。今後も発表の機会があると思いますが、そのチャンスを無駄にしないように経験を積んでいこうとこのプレゼンテーションを通して感じました。

最後になりますが、お忙しい中、丁寧にご指導して下さった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。ありがとうございました。


研究室配属感想文

医学部生命科学科3年 水野嘉博

私は今回の研究室配属(前期)で病態制御内科学分野(第3内科)の総合消化器研究室消化器グループにお世話になりました。消化器に興味を持っていたことと、難病についての研究に携わりたいとの想いから、この研究室への配属を希望しました。生命科学科ということで臨床系の研究室への配属は珍しいかと思いますが、臨床系の研究室で研究する先輩もいらっしゃることに加えて、臨床系の研究室の中でも、基礎系と臨床系の両方があるので基礎系の研究も十分にできると思います。

担当教官である知念先生の研究の本筋は、炎症性腸疾患をターゲットとした、Treg(制御性T細胞)による免疫抑制機序の解明と治療に用いるためのTregの開発です。今回の研究室配属での私が頂いた課題は、それに関連があるもので、ハイブリドーマであり、B細胞レセプターとAP-1の下流にtdTomatoを導入したNS-1という研究室が作成した細胞を評価することでした。

実験ではin vitroで細胞を用いて、それをFACSで解析するのが主体でしたが、様々な手技の経験をさせて頂きました。大腸菌の形質転換によるBCRの発現、FACSによる解析やセルソーティング、電気泳動、レトロウイルス感染によるCARの導入、マウスの解剖などを行い、今後の研究室配属の基礎基本を学べたと思います。今回の配属期間の6週間では、多くの実験をこなしました。最初はかなり一個一個の作業がぎこちなく、時間がかかっていましたが、徐々に慣れていき、一人でできるようになったのは嬉しかったです。午前中は解析して、午後には複数の実験の仕込みをするような感じのスケジュールで、複数の実験を同時並行で進めているので、何の実験をしているのか混乱することも多かったですが、先生に丁寧に教えて頂き、無事に終えることができました。やっている実験の原理と結果を理解するのに精一杯で、忙しい毎日でした。実験は開始直後から、当初の予想とは全く違う結果が出続けたことで、今見ている現象は何であるかの解釈が難しく、アーチファクトによるものなのか、環境が悪かっただけなのではないか、原因となる因子は何なのかなどと色々なことを考える必要があったことが一筋縄には行かない厄介なところであって、研究にはいつでもついて回るそれらへの対処は難しさもありつつ、やりがいがありました。また、実験にいつ見切れをつけるのかの判断も含めて、研究の厳しさの一端を早々にして実感することになりました。

先生、大学院生の方々、技術指導員の方など研究室の皆様はとても親切で、実験内容や実験手技を丁寧に優しく指導して下さいました。お忙しい中、貴重な時間を割いて指導して頂き、本当にありがとうございました。

  • FACSでの解析

    FACSでの解析

  • 細胞培養の様子

    細胞培養の様子

  • CHO-K1(マウスの細胞)

    CHO-K1(マウスの細胞)


研究室配属感想文

医学部医学科3年 川越南実

私は今回の研究室配属において脳神経外科学分野にお世話になりました。この教室では、脳腫瘍、脳血管障害、神経生理、医用工学などの分野の研究が行われています。配属期間中、私は主に脳腫瘍における研究に携わらせていただきました。特に、高分解能融解(HRM)解析を用いた2つの神経膠腫の組織におけるIDHの変異の解析を行い、最終日には研究内容と解析結果について作成したスライドを用いて発表を行いました。

神経膠腫(グリオーマ)は、原発性脳腫瘍の30%以上を占めると言われており、神経膠腫における分子病理診断は目覚ましい進歩を遂げています。分子診断に必須となる遺伝子異常が多く報告され、分子病理診断による分類は2021年に改訂されました。この分子診断に重要な遺伝子の一つに、TCAサイクルにおいてグルタミン酸の代謝に重要な役割を果たすイソクエン酸脱水素酵素(IDH1およびIDH2)があり、この遺伝子に変異がある場合とない場合では患者さんの予後が変わるため、神経膠腫の診断にはIDHの変異の判定が必要になります。この研究室では九州大学が独自に解析法を確立した高分解能融解(HRM)解析を行っており、これによりIDHの変異の有無を判定することができます。HRM解析では、二本鎖DNAが一本鎖DNAに解離する温度(増幅産物の融点 Tm)をモニターし、Tmの違いや融解曲線の形の違いで変異を判定します。従来の融解曲線解析とは違い、HRMは単一ヌクレオチドの違いを持つ増幅産物間の識別が可能です。さらに、今回行った解析法は微分法を用いることで融解曲線の形の違いを視覚的により分かりやすくしたものであり、初めて行うため判定に慣れていない私でも比較的簡単にIDHの変異の有無を見分けることができました。実際の作業としてはピペットを用いた試料の混合が多く、基本的な作業手順からコンタミネーションなど注意すべき点まで実際に手を動かしながら学ぶことができました。単純な作業ではあるけれど、正確な検査結果を得るためには注意すべき点も多くあり、良い経験となりました。また、インキュベーター、リアルタイムPCR、HRM解析などの器械の基本的な操作についても学ぶことができました。初めて行う作業なので、つい慎重になってしまいましたが、解析結果は期待通りのきれいな結果が得られ、嬉しかったです。

この他にも神経膠腫やHRMに関する英語の論文の読解やWestern blotting、MLPA、ミトコンドリアの遺伝子解析といった様々な実験にも参加させていただきました。電気泳動など基本的な研究手法や様々な機械を用いた実験に携わり、一部は自分でも実際に行って解析結果を得る過程は達成感もあり、良い経験となりました。

最後になりましたが、お忙しい中、丁寧にご指導してくださった研究室の皆様に心より感謝申し上げます。本当にありがとうございました。


「こころ 分子と未来におきて メスを構えるべし」

〜小児外科研究室配属を経験して〜

医学部医学科 3年 三好 康介

私は令和5年度研究室配属において、小児外科学教室にお世話になりました。所属している部活のOBである馬庭淳之介先生から小児外科のやりがいについてのお話を聞かせていただき、子供たちの未来を守る小児医療に興味を持ったのがきっかけです。

今回、私は「JF1マウスのHypoganglionosisモデルとしての有用性の検討」という研究テーマのもと様々な実験を経験させていただきました。Hypoganglionosisとは指定難病である腸管神経節細胞僅少症で、予後不良の先天性消化管疾患です。Hypoganglionosisのモデル動物であるJF1マウスの腸管運動性についてOrgan bathを用いた検討や、HuC/D免疫染色を用いた腸管神経節細胞数の計測などを行いました。実験結果は予測していたものと異なる結果となりましたが、実験結果の解析を通して、得られたデータを真摯に受けとめ、どうしてこのような結果が出たのか、改善点は何かなど考察を重ねていくことの重要性を学びました。また、研究テーマ以外の実験もたくさん経験させていただきました。教科書の中では見たことがあるけれど、自分にはきっと手に届かないだろうと思っていた技術もあり、わくわくの連続でした。

配属期間中には、研究テーマであるHypoganglionosisに関連したいくつかの論文の読解も行いました。抄読会では「子豚の直腸S状結腸hypoganglionosisモデルによる腸神経系が腸管バリア機能と微生物群の生後発達に与える影響」という論文を読み、そのまとめを発表しました。討論において様々なご指摘をいただく中で、研究者としてどういった視点を持つべきなのか感じ取ることができたように思います。

この他にも、実際に病棟で行われているカンファレンスや回診などにも参加させていただきました。実際に患者さんと向き合わせていただき「研究のための研究」ではなく「子供たちのための研究」を行っていくことの重要性について、実際の体験として感じとることができました。それだけではなく、自分が今何のために勉強しているのかについても改めて考える機会をいただきました。「テストのための勉強」ではだめですね(笑)。

「こころ 分子と未来におきて メスを構えるべし」 

これは田尻達郎教授の言葉です。今回、私はその「分子」にあたる部分のほんの一部を経験させていただきました。研究室配属を終えた今、私の目標はもちろん、小児外科教室の先生方のように、患者さんの未来を守り、医療の未来を切り開いていく立派な医者になることです。

最後になりましたが、田尻達郎教授をはじめ小児外科の先生方、お忙しい中丁寧にご指導してくださった内田康幸先生、そして研究室の皆様には感謝の気持ちでいっぱいです。楽しく活動させていただき本当にありがとうございました。

  • 顕微鏡を用いた研究の様子

    顕微鏡を用いた研究の様子

  • Organ bathを用いた研究の様子

    Organ bathを用いた研究の様子

  • 小児外科の先生方、小児外科を志す6年生の先輩方との一枚

    小児外科の先生方、小児外科を志す6年生の先輩方との一枚


研究室配属感想文

医学部 医学科3年 杉田志保

今年度の研究室配属において、私は生体防御医学研究所・器官発生再生学分野にお世話になりました。この研究室では、主に肝臓の発生や損傷後の再生メカニズムについて、そして肝疾患への治療応用を目的としたダイレクトリプログラミングに関する研究を行っています。私は移植医療に興味があったため、この研究室を希望しました。

実習では、プラスミドDNAを大腸菌に取り込ませ、増やし精製した後、ウイルス産生細胞のPlatE細胞にこれを含むウイルスをつくらせ、線維芽細胞(MEF)に感染させて遺伝子発現の様子を観察しました。実験操作よりも、研究では考えることが大事ということを学んでほしいとの意向から、比較的ゆとりのあるスケジュールが組まれていました。そのおかげで今やっている操作の意味などじっくり考え、疑問があれば同じ研究室に配属された仲間と話し合ったり研究室の方に尋ねるなどして深めることができました。

また、週一回のラボミーティングに参加させていただきました。ラボミーティングでは、発表者が自身の研究についてプレゼンし、参加者が順に質問していきます。そうすることで発表者・参加者双方の理解が深まると同時に自分の研究へのヒントを得ることができます。双方にとって実のある議論とはこういうものなのだと実感しました。特に、先生方は発表者が研究を進める上での道標となるような質問をされており、相手のためにもなる質問とは何かと考えさせられました。私も何か質問をしなければと注意して聞くなかで、疑問を探すという行為は理解の手助けとなり、「なぜその方法でなければならないのか」「他の解釈はできないか」などと批判的に考えることが大切であると感じました。

実習最終日には、課題の論文抄読会が行われました。先生からの質問に答えながら論文の内容を理解していく形式で、英語の論文を正しく理解することは難しく、英語力や読解力を磨く必要性を強く感じました。また、先生が研究における心構えや覚悟、大変さ、一方で楽しさなど様々な話をしてくださり、特に臨床応用をする上での困難や共同研究の話から、1つの治療法の開発にはいくつもの壁があり、様々な分野・知識が合わさってようやく成り立つものであるとわかりました。

この実習を通して、研究室の方々の研究に対する熱意を直接感じ、自分の姿勢を見直すと同時に今後について考えるきっかけとなりました。課題も多く見つかったため、これからの取り組みに活かしていきたいと思います。

最後になりますが、お忙しい中丁寧に指導してくださった鈴木先生、川又先生、三浦先生をはじめ、研究室の皆様に心より感謝を申し上げます。本当にありがとうございました。


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