2024年08月02日
国際・留学
韓国 釜山大学校での臨床実習報告(クリニカルクラークシップ)
「クリニカル・クラークシップ」とは、学生が医療チームの一員として診療・治療に参加し、臨床能力を身につける臨床実習方式のことです。
九州大学医学部医学科では、韓国の釜山(プサン)大学校と学生交換交流を実施しています。釜山大学校と九州大学病院とで、相互にクリニカル・クラークシップのための短期留学派遣を行っています。
英語をはじめとする外国語を用いながら、母国とは違う医療の現場を肌で感じる経験は、学生にとって通常の大学生活では得られない貴重なものとなっています。
本記事では、2024年5月13日から6月7日にかけて短期留学を行った学生の報告を掲載します。
上地完和さんの実習報告
実習について
私は前半二週間を放射線科、後半二週間を内分泌代謝内科で実習しました。韓国は医師によるストライキの真っただ中であり、釜山大学校の学生はおらず基本的に実習生は私一人でした。また、先生方がとても忙しいこともあり、実習が半日で終了することもしばしばありました。
放射線科では二週間、オムニバス形式で毎日違う先生からのレクチャー(と、ときたま見学)がありました。初日に日程が渡され、一日ごとに胸部レントゲン、心血管、腹部、脊椎、頭部…など各分野が振り分けられ、これらについて先生方から教えて頂きました。もちろんレクチャーは英語で行われるのですが、やはり困難だったのは専門用語でした。その日の分野は日程表から分かるため、あらかじめその分野の専門用語を一通り確認した後にレクチャーに挑むのですが、分からない単語も何度も登場しそのたびに先生に聞き返していました。先生による言い換え等の追加の説明でもその単語の意味が分からない場合に最後の手段として翻訳機能を使いましたが、追加の説明でその単語の意味を推測可能、理解することも多く、なるべく翻訳を使わないように努力しました。また、その場で分からなかった単語はメモに書きとめ、レクチャー終了後にそれらの単語の意味を調べて復習していました。このような状況ではありましたが、英語でのレクチャーでも学びを得ることができ、そのような際はやりがいも強く感じました。
内分泌代謝内科で最も努力を要したのは論文抄読会のプレゼンです。英語論文を一本読み切ることもそうですが、何よりも難しかったのは英語のスライドの作成です。スライドをなるべく簡潔にしたいという気持ちはあるのですが、英語では簡潔に箇条書きにする事ができず、文章のようになってしまうことも多々あり難渋しました。次に難しかったのは発音です。これまで使ったことがないような専門用語が論文には多く登場し、発表準備では発音を調べることや練習に時間を必要としました。また、英語で発表する際には大雑把ではなく全文原稿を準備して発表するべきという教訓も得ました。話すことが分かっていてもいざ本番で英単語がとんでしまうと非常に困りました。ストライキの影響で内分泌代謝内科には入院患者はいない状態ということもあり、それ以外に実習で行ったことは甲状腺エコーやFNA(穿刺吸引細胞診)などの手技や外来の見学、下垂体疾患についてのレクチャーで、回診やカンファレンスは今回ありませんでした。外来も、ストライキの影響から医師一人当たりの外来患者数が午前だけで50人以上と大変な状態で、先生から英語での説明はないこともしばしばでした。その際は後ろからカルテをのぞき込み診断を見るのみ(確定診断などは英語で記入されている)でした。また、英語での説明をして頂けた際にも症状に関する表現が難しく感じ、勉強不足を痛感しました。本当に忙しい際には外来見学はスライド作成準備に変更になるなど、ストライキの余波も感じました。
このような多忙な時期にも関わらず学生を受け入れて下さり、放射線科、内分泌代謝内科の先生方には大変感謝しております。ありがとうございました。
生活
キャンパス内の寮に泊めさせて頂きました。寮内の食堂三食込みで金額は一人当たり670,000ウォンでしたが、これは釜山大学校からの補助金で払われていました。寮は病院まで歩いて10分程度で、一通りのものが揃っています。洗濯機や電子レンジなど一部は共用スペースに配置されていました。隣の寮にコンビニも併設されており、生活には困りませんでした。また、釜山大学校の学生からおいしいレストランについて教えていただき、週末など余裕がある際には徒歩15分程度のレストラン街まで行きおいしい韓国料理を楽しめました。余談ですが、寮内の食堂は文字通り、毎食キムチがでますし、いつも様々な辛さの料理が提供されます。辛いものが苦手な人には少し厳しいかもしれません。
交流
実習中、先生方にご飯に連れて行ってもらう機会は何度もありますし、釜山大学校の学生との飲み会も何度かありました。もちろん使用言語は英語ですが、専門用語が要らないこと、向こうも英語のネイティブスピーカーでないことで、そこまで困ることやプレッシャーを感じることはありませんでした。むしろお酒が入ることでお互いに話も弾みますし、英語でここまで楽しくコミュニケーションが取れるのかと自信につながりました。今の韓国での大きな問題であるストライキやそこに至る社会背景(社会保険や医者の勤務形態)などまじめな話から、MBTIが韓国でいかに大事か、飲み会後に写真を撮りに行く流れなど、韓国文化にも触れることが出来て、貴重な体験でした。また、祝日に一日かけて慶州(キョンジュ)も案内してもらいました。これらの交流は自分の中でこれまでなかった経験であり、留学して良かったと感じました。
最後に
すでに書いてしまいましたが、私はこの釜山大学校の実習に参加して非常に良かったと感じています。そもそも、私は海外に行き英語でコミュニケーションを取ること自体が初めてで、一か月の海外滞在自体が新鮮な経験でした。また勉強面では、専門英語への苦手意識が軽減されました。言語の面では、英語を介して他人とうまくコミュニケーションを取れたことで、英語でのコミュニケーションというものに対するイメージも変わりました。韓国の学生も日常的な英語力は私たちと同様で、話せる人も話せない人もいる、という雰囲気です。お互いに第二言語でのコミュニケーションとわかっているからこそ頑張って理解しようとする姿勢をもって会話するので、最低限の英語力があれば困ることはないと思います。だからむしろ、韓国での留学は英語に自信がないが海外に行ってみたい人にこそ勧めたいです。
大学外で実習をしてみたいと思っている人や海外に少しでも興味がある人は、ぜひ海外でのクリクラ、韓国でのクリクラを考えてみてはいかがでしょうか。
代謝内分泌内科の先生方とディナー
釜山大学の学生に案内してもらって慶州観光
島崎聡子さんの実習報告
実習について
2024年5月13日から6月7日にかけて梁山釜山大学校病院で1か月実習をしました。前半の2週間は血液腫瘍内科、後半の2週間は呼吸器内科で実習しました。
1週間目は血液内科の先生について、毎日入院患者の回診に同行して、先生が治療や病気、回診で話したことについて英語で説明してくれました。私が教えてもらった先生は多くの患者を担当していましたが、患者さん1人1人に対して丁寧に病気や治療について説明し、看病している家族の話を聞いていたのが印象的でした。韓国の病院では患者のベッドの隣に看病する家族用の簡易ベッドがあり、家族が付き添って看病していることが多かったです。また、日によって外来や病棟の処置を見学したり、血液の病理の先生に骨髄や末梢血の標本について講義を聞いたりしました。
2週間目は腫瘍内科の先生について外来を見学したり、カンファレンスに参加したりしました。その中で一番印象に残っているのは、癌の治療方法を決めるカンファレンスで、病理医、放射線科医、外科医、内科医、リハビリの先生が集まって、病理検査や放射線検査の結果について話し合った後、患者とその家族に来てもらい、病理医から順に病理検査の結果、CTやMRIの結果、手術や化学療法など治療方法、リハビリの先生からのアドバイスを患者に説明していました。色々な科の先生と患者、家族が集まって話し合い、一度にそれぞれの専門家から説明するところがとても合理的だと感じました。
後半の2週間は呼吸器科で実習をしました。午前中はその日の担当の先生に外来や入院患者について説明してもらい、回診や外来診療に同行しました。お昼は先生がご飯に連れて行ってくださり、ストライキの話から医学に関係ない話まで、いろいろなことについて毎日違う先生と話せて楽しかったです。呼吸器科の先生は英語がとても上手で、気さくな先生が多かったので、英語で気軽に質問したり話しかけたりできてリラックスしてコミュニケーションを取ることができました。呼吸器科ではストライキの影響で先生の数が半分しかおらず、先生方が忙しかったので、午後は週に1回気管支鏡検査を見学しましたが、それ以外は午前中で終わることが多かったです。
韓国で起こっている医療ストライキについて思ったこと
実習に参加する前からニュースや釜山大学校から九州大学に実習に来ていた学生から、「韓国では韓国政府の医学部の入学定員の増員政策に反対して、研修医や専攻医の先生が全員でストライキを起こしていて医療現場が大変だ」ということは聞いていて、韓国の医療現場はどうなっているのだろう、実習できるのだろうか、どうしてストライキという大きな事件になっているのか、やストライキによって本当に事態が良くなるのかなど、様々な疑問がありました。
今回、1か月間梁山釜山大学校病院で実習して色々な先生や仲良くなった釜山大学校6年生の学生とストライキについて話をする機会がたくさんあり、それぞれの考えていることや思っていることを聞くことができました。例を挙げると、「医師の増加は必要だが、政府の言う通り釜山大学校の学生の数が一気に1.6倍になってしまったら、教室も先生も足りないし、研修病院もないのに地方の医学部の定員を増やしても教育体制が整っておらず現実的ではない」、「皮膚科や美容整形など人気がある科の医師が増えるだけで、医師不足に対する解決策として意味がない」といった意見が多かったです。また、学生と話していて、韓国の医療現場で働くことに対して希望を持てないと言っているのを聞き、悲しい気持ちになりました。ある学生が韓国の一般の人が期待していることについても教えてくれました。
色々な話を聞いた結果、私は、社会の複雑さを実感し、一部を理解できたとしてもすべて理解すことはできないなと感じました。ある日、先生から、「日本で同じようなことが起こったら日本人ならどうする?」と聞かれました。私は「もし日本で医療現場が混乱するような出来事が起こったら、ストライキはしないと思うけど、どうするのだろう、何もしないのかな」と考えさせられました。私は学生で、実習で経験した九州大学病院と福岡のいくつかの病院のことしか知らず、医療を維持していく上で、何が問題なのかも、どんな解決策があるのかもわからないので、色々なことを経験して考えていきたいと思いました。
さいごに
韓国での実習では出会った先生方や友人がとても親切で、気にかけてくれたのでとても楽しく1か月を過ごすことができました。ストライキで大変な中、受け入れてくださった先生方にとても感謝しています。日本語が使えない中、先生が言っていることを理解できるのか、自分の思っていることを伝えられるか自信がなかったですが、事前に疾患名や症状、解剖について単語を勉強することで、先生が言っていることを理解できました。また、お互い伝えよう、理解しようと頑張る気持ちがあれば、コミュニケーションは取れると実感しました。また、実習で学生と一緒になることはなかったですが、九州大学に実習に来ていた釜山大学校の学生が、同級生を呼んで一緒に夕食をとる機会を作ってくれて、釜山大学校の学生ともご飯に行ったり、観光地を案内してくれたりと、交流することができました。とても貴重な経験をありがとうございました。
実習の様子
