学生生活

2025年08月25日

国際・留学

米国 クリーブランド・クリニックでの臨床実習報告(クリニカル・クラークシップ)

「クリニカル・クラークシップ」とは、学生が医療チームの一員として診療・治療に参加し、臨床能力を身につける臨床実習方式のことです。

九州大学医学部医学科では、臨床実習の一環として、米国クリーブランド・クリニック短期実習プログラムを実施しています。クリーブランド・クリニック (Cleaveland Clinic) は米国および世界でもトップレベルの病院として一貫して高い評価を受けており、脳死・生体肝移植は年間150例ほど行っています。

このクリーブランド・クリニック短期実習プログラムは、外科部長の Frug 教授と、移植外科の責任者である Miller 教授の了承のもと、九州大学病院 消化器・総合外科(第二外科)が主体となって実施しているプログラムです。プログラムの内容としては、脳死肝・小腸移植ドナーおよびレシピエント手術への参加、ICUおよび病棟での移植外科診療への参加、セレクションコミティーや病理カンファレンスを含む各種カンファレンスへの参加などが挙げられます。

本記事では、2025年5月12日から6月6日にかけて短期留学を行った3名の学生の報告を掲載します。

深⼭伊安さんの実習報告

⽶国 Cleveland Clinic での留学で得た学び

九州⼤学医学部医学科 6 年 深⼭伊安

2025年6⽉にクリニカルクラークシップの⼀環として、⽶国 Cleveland Clinic の Hepato-pancreato-biliary & Transplant Department にて4週間の実習をさせていただきました、九州⼤学医学部6年の深⼭伊安と申します。今回の実習を通じて多くの学びを得ることができましたので、ご報告させていただきます。

クリーブランドクリニックの前にて

私が Cleveland Clinic での実習を志望した理由は⼆つあります。⼀つ⽬は、海外で⽣まれ育った背景から他国の⽂化や価値観に強い関⼼があり、⽇本以外の国では医療がどのように提供されているのかを肌で感じてみたいと思ったことです。⼆つ⽬は、5年次に第⼆外科での実習を通して⽇本の移植医療、とくに脳死下移植の症例数の少なさという課題を知り、脳死下移植が⼀般的に⾏われている⽶国の医療制度との違いを現場で学びたいと考えたことです。

実習を通して最も印象的だったのは、⽇⽶における移植制度の構造的な違いです。⽶国では、脳死が予測される患者が発⽣した場合、担当医が UNOS(United Network for Organ Sharing)に届け出ると、その後の⼿続きは移植コ ーディネーター主導で⾏われ、医師の負担が⼤きく軽減されていると感じました。特に印象的だったのが移植外来で、コーディネーターが患者に対し40分〜1時間かけて丁寧に説明を⾏った後、医師が最終的な意思確認と説明を10分程度で⾏うという明確な役割分担がなされていました。また、⽶国では連邦法により「Required Referral System」が義務付けられており、死が差し迫った患者の発⽣時にはすべての病院が地域の臓器調達機関に通報することが法律上の義務とされており、違反した場合には医療機関認定の取り消しや Medicare/Medicaid の適⽤除外などの厳しい制裁があります。こうした法制度や役割分担の整備こそが、⽶国で脳死下移植が普及している要因の⼀つだと実感しました。⽇本では、脳死下ドナー数が少ない背景に仏教的な死⽣観による臓器提供への抵抗があるとしばしば⾔われますが、同様の死⽣観を持つ韓国やシンガポールとの症例数の違いを考えると、それだけでは説明できません。医師の業務負担の多さや、法的義務・標準化されたプロトコルの⽋如といった医療制度上の課題こそが、現場での移植医療の普及を妨げている主因であると考えるようになりました。

⽇本では未導⼊の機械灌流装置.
肝臓の保存時間を向上させる.

また、移植以外の医療現場においても、⽇⽶の制度や運⽤の違いを多く⽬の当たりにしました。Cleveland Clinic では、ナースが複数の資格を有し、それぞれに応じた専⾨的な業務を担っていることに驚きました。たとえば、開胸を専⾨に⾏うナースが⼿術チームに加わっており、役割分担の明確さと⾼度な専⾨性に感銘を受けました。外来診療では、主訴に応じてすぐに他診療科と連携をとるシステムが整っており、主治医制というよりもチーム医療として運営されているため、医師が⾃⾝の専⾨領域に集中しやすい環境が整っていました。さらに、Haiku というスマートフォンアプリを通じて医師がどこにいてもカルテを閲覧・オーダーできる仕組みや、オンライン診療・先進的な治療技術の導⼊など、IT と医療の連携の柔軟さもアメリカの⼤きな強みだと感じました。⼀⽅で、医療費の⾃⼰負担が⼤きく、保険によって使える薬剤が異なるなど、患者にとっての経済的負担も印象的でした。現在、⽇本でも国⺠皆保険制度の維持に関して多くの課題が指摘されていますが、患者のアクセス性と平等性という観点から⾒れば⾮常に優れた制度であり、その価値を再認識する機会となりました。

最後に実習中に⾃分にとって特に印象的だったのは、アメリカの医学⽣たちの姿勢でした。彼らは朝6時前には病棟に⼊り、複数の受け持ち患者についての情報収集とプレゼンテーションを的確にこなし、回診中も積極的に発⾔していました。私⾃⾝、最初は受け⾝の姿勢で臨んでしまい、回診の際に上級医から “Why are you so quiet?” と問いかけられたのが⾮常に悔しく、それを機に積極的な姿勢と事前準備を⼼がけるようになりました。実習を通して、「勉強に対して貪欲であること」「⾃分から積極的に意⾒する姿勢」の重要性を深く実感しました。

今回の実習は、移植医療を含む制度の違いだけでなく、医療現場における IT 活⽤や専⾨性の在り⽅、医学⽣としての姿勢に⾄るまで、多くの学びに満ちた貴重な経験でした。今後の学びや将来の進路において、今回得た知⾒と反省を活かし、より良い医師を⽬指して努⼒してまいります。

田中優斗さんの実習報告

5/12-6/6クリーブランドクリニック実習成果報告

6年 田中優斗

私はクリクラ第5期に第二外科の海外留学プログラムで4週間アメリカのオハイオ州クリーブランドにあるクリーブランドクリニックで実習を行いました。今回はその実習での学んだことや面白かったこと、きつかったことや日本と違ったところを報告していきます。

まず病院に入ってすぐ、患者さんや職員の方々は皆マスクをしていない事に気が付きました。先生いわく、アメリカではマスクをしていると「変な病気にかかっていると思われる。」「パンデミックみたいでいやだ」などの印象を持つそうでコロナウイルスの制限が緩和された今では誰もマスクをしていないそうです。これに関しては私も同意見で、日本でもはやくこうしてくれないかなと思いました。また、病院全体を見学して持った印象としては日本と比べて騒がしいなと思いました。これは良い悪いなどではなく、アメリカでは店員さんや知らない人とでもフレンドリーに話しかけに行くのでそういった国民性だからなのかなと思いました。また、病院の先生や看護師さんたちもとてもフレンドリーでジェスチャーも交えて笑顔で話しかけて下さるので英語ができない私でも話しやすかったです。

実習内容は主に手術見学で、患者さんへの介入(手術など侵襲的なこと)は禁止で、回診で挨拶やちょっとした雑談などのコンタクトはとれるといった感じでした。手術は肝移植を始め、肝切除や心臓、肺移植、最新の超音波癌治療などさまざまな高度な手術が毎日行われており、見学しながら、若い先生がとなりで解説してくださることが多かったです。オペ室では日本と違い、かかっている音楽も盛り上がっており、看護師さんが踊ってたり、雑談したりととても和やかな雰囲気でした(これは日本でもそうですが)。

病院ではアジア人も多数働いており、九大の橋元先生はじめ、韓国人の先生、阪大や東大の先生もいらっしゃいました。どなたも外科で長くクリーブランドクリニックに務めており、みんなから慕われている様子で、世界で活躍する日本人、韓国人の先生方をみて憧れをもち、自分の外科医を目指すモチベーションに繋がりました。

また、時々臓器摘出に自分たちで車で向かうということもしました。これは初めての体験で終始とてもワクワクしていました。ただ結局摘出しないことにしましといったことも少なくは無いそうで私が行ったのは摘出せず、ただ行って帰っただけなのですがそれはそれでいい経験でした。

実習をとおして学んだこととしては、積極性と質問力です。日本では「質問ないですか」と聞かれても「大丈夫です」と答えることが多いですがアメリカではご法度で必ず質問しないと興味が無いと思われるそうです。これを意識して実習に取り組むことでただボーッと見学することがなくなり、考える時間が増えたのでより成長に繋がるようになったと思います。また、アメリカ人の躊躇わず積極的に話しかけに行く姿勢にも感銘を受け、日本に帰っても今後は積極的に質問し、学びに行く姿勢を意識しようとおもいました。

つづいてアメリカでの生活ですが私たちはAirbnbで部屋を借りて3人で住むといったもので、観光の時以外はご飯は自炊で済ませました。家事の負担は3人で均等になるように気をつけました。物価は全体的に高く、当時1ドル152円だったのでなるべく外食は控えて節約するようにしました。病院の敷地内はスーパーがあり、そこで買い物したり、公園でキャッチボールをしたりし、シェアライドで10分ほどでダウンタウンまで行くことができ、買い物したり野球を見に行ったりもしました。私は大のMLBファンなので10試合ほど見に行きました。ナイトゲームが多いので実習後に行くことができます。ちょうど実習期間中にドジャースが遠征で来て大谷選手、山本選手を生で見ることが出来て最高の思い出でした。

最後に、病院実習はもちろん、それ以外でも仲間と一緒に行動したり、橋本先生とスタバにいったり、道端でアメリカ人と話したりと初めての経験だらけでとても刺激的な4週間で、モチベーション向上や今後の生きる姿勢を見直すキッカケになったと思います。

廣松真季さんの実習報告

クリーブランドクリニックでの実習報告書

廣松 真季

2025年5月12日~2025年6月6日の4週間、米国クリーブランドクリニックの Department of Hepato-pancreato-biliary & Transplantation にて橋元宏治先生のご指導のもと実習をさせて頂きました。

実習

毎朝フェローの先生にその日の予定をお聞きして、見学可能なイベントに参加するという形で手術や回診、臓器摘出などの見学をしました。フェローの先生は毎日お忙しく手術をされているにもかかわらず、優しく接して下さりました。

手術見学では、移植手術や肝切除、胆嚢摘出など様々な内容を見ることができました。患者さんの体格がアメリカサイズで大きくて驚きました。また、machine perfusion という機械灌流の技術も見学できました。ドナーから摘出した肝臓をポンプにつなぎ、機能の評価や回復をしながら移植手術まで保存するものです。これによって移植適用臓器が増加し、また真夜中の移植がなくなったことで、外科医の QOL も上昇したそうです。

3回ほど臓器摘出にも同行しました。脳死後の臓器摘出だけでなく、日本ではみられない心停止後の摘出も見ることができました。ドナーになった方一人一人の提供までの背景を聞いたり、決められた順序でスピーディーに臓器が取り出されていく光景を見たりと貴重な経験をさせて頂きました。OPA (Organ Procurement Organization) という第3者の組織が介入して移植臓器を扱うことによって、医師の精神的摩擦がなく速やかな臓器提供が行なわれているそうです。

回診や外来にも参加しました。回診には医師の他に PA (Physician assistant) や看護師、薬剤師が参加しており、PA の方の存在感が大きく、血液検査所見や問題点を医師に提示している様子が印象的でした。職種間でのチームワークの良さが沢山の手術件数を支えていると思いました。

見学中は、同じく臨床実習留学をしていた香港やトルコからの医学生との交流もありました。各々の国の医学教育の違いや目指すキャリアについての話はとても興味深く、実習中には鋭い質問を積極的にされていたので、自分も頑張ろうと思いました。

課題・印象に残っていること

1つ目は、世界トップの病院で活躍されている、日本のみならず色々な国の先生方を間近に見て、憧れを持ったことです。

2つ目は、積極性と質問力です。日常的に議論がはじまったり急に質問されたりすることもあったので、常に積極的に学ぶ姿勢と、疑問点を考えながら勉強することが自分の課題だと思いました。

観光/生活

1か月の滞在中、クリーブランド散策の他、ワシントン D.C.やニューヨーク、ボストンも訪れました。美しい自然や大都会の街並みをみたり、多国籍料理を食べたりして沢山の思い出ができました。一人旅でボストンを訪れた際には飛行機に乗り遅れるハプニングがあって焦りましたが、今となっては良い経験となりました。また、留学中は病院内の敷地内にあるAirbnbに留学メンバー3人で滞在し、みんなで自炊を頑張りました。掃除なども協力しあいながら1か月間楽しく暮らすことができました。

最後に

沢山の先生方や医学生の人との出会いを通じて、かけがえのない1か月を過ごすことができました。将来、また留学に挑戦したいと改めて感じました。今回このような貴重な経験を与えてくださった吉住教授をはじめとする第二外科の先生方、クリーブランドクリニックの橋元先生方、そしてご支援してくださった方々に深く御礼申し上げます。

橋元先生のオフィスにて

クリーブランドクリニック前にて

国会議事堂前にて

ページのトップへ