学生生活

2026年07月13日

国際・留学

米国 クリーブランド・クリニックでの臨床実習報告(クリニカル・クラークシップ)NEW

「クリニカル・クラークシップ」とは、学生が医療チームの一員として診療・治療に参加し、臨床能力を身につける臨床実習方式のことです。

九州大学医学部医学科では、臨床実習の一環として、米国クリーブランド・クリニック短期実習プログラムを実施しています。クリーブランド・クリニック (Cleaveland Clinic) は米国および世界でもトップレベルの病院として一貫して高い評価を受けており、脳死・生体肝移植は年間150例ほど行っています。

このクリーブランド・クリニック短期実習プログラムは、外科部長の Frug 教授と、移植外科の責任者である Miller 教授の了承のもと、九州大学病院 消化器・総合外科(第二外科)が主体となって実施しているプログラムです。プログラムの内容としては、脳死肝・小腸移植ドナーおよびレシピエント手術への参加、ICUおよび病棟での移植外科診療への参加、セレクションコミティーや病理カンファレンスを含む各種カンファレンスへの参加などが挙げられます。

本記事では、2026年5月18日から6月12日にかけて短期留学を行った学生の報告を掲載します。

森下正滉さんの実習報告

Cleveland Clinicにおける臨床実習を通して学んだ米国の移植医療

森下 正滉

私は2026年5月18日から6月12日まで、米国オハイオ州のCleveland Clinic, HPB & Transplant Centerにおいて、橋元宏治先生のご指導のもと実習をさせていただきました。
Cleveland Clinicは世界有数の医療機関であり、肝移植においても米国有数の施設です。私は以前より外科、特に移植外科に関心を持っており、米国で移植医療がどのような制度や体制のもとで行われているのかを学びたいと考え、本実習に参加しました。また、日本と米国では移植医療を取り巻く制度や症例数に大きな違いがあり、その背景についても学びたいと考えました。
実習では、手術見学、病棟回診、外来診療、臓器摘出への同行、機械灌流(MP)の見学など、幅広い内容を見学する機会をいただきました。手術見学では、Donation after Brain Death(DBD, 脳死下臓器提供)やDonation after Circulatory Death(DCD, 循環停止後臓器提供)による肝移植を連日見学しました。多い日には1日に5件の肝移植が行われることもあり、高い症例数を支える診療体制を実感しました。加えて、生体肝移植、腎自家移植、ロボット肝切除、胆管癌に対する肝切除、エキノコックス症に対する手術など、多様な症例も見学しました。
実習の中で最も印象に残ったのは、DCDにおける臓器摘出チームへの同行です。死亡確認後、待機していた外科医が速やかに入室し、心臓、肝臓、腎臓などの摘出を進めていく過程を見学しました。移植手術ではレシピエント側に届いた臓器を見ることが中心でしたが、臓器提供の現場に立ち会うことで、その臓器がドナーから提供されたものであることを強く実感しました。臓器提供の現場を経験したことで、移植医療は高度な外科医療であるだけでなく、ドナーとそのご家族の善意に支えられた医療であることを改めて認識しました。また、臓器摘出には外科医だけでなく、Transplant Coordinator(TC, 移植コーディネーター)や搬送スタッフも関わっていました。夜間や遠方でもチームが出動し、片道数時間かけて臓器摘出に向かうこともあると伺い、臓器提供を移植につなげる体制の厚みも印象に残りました。
日本では限られた施設でのみ実施予定となっているMPについても重点的に見学する機会をいただき、その実際の運用や臨床的意義について理解を深めることができました。特に、第二外科所属で現在Cleveland Clinicにいらっしゃる南祐先生から、機械灌流の原理や装置の管理、臨床での運用についてご指導いただきました。MPは、摘出臓器を体外で灌流しながら状態を保存・評価する技術です。実習ではNormothermic Machine Perfusion(NMP, 常温機械灌流)やHypothermic Oxygenated Machine Perfusion(HOPE, 低温酸素化灌流)を用いたMPを見学し、装置への接続、灌流中の管理、取り外しまでの一連の流れを見ることができました。MPにより保存時間に余裕が生まれ、深夜に到着した臓器を翌日の予定手術として移植したり、レシピエントの状態や臓器サイズに応じて別の候補者を検討したりすることが可能になります。また、灌流中の検査値や臓器の状態から、移植後に肝臓が十分機能しうるかを事前に評価できます。MPは単なる保存技術ではなく、限られた臓器をより安全かつ適切に移植へつなげるための技術であることを学びました。
外来見学では、診療の進め方の違いも印象的でした。外来では、医師と患者が対話を重視しながら診療を進めており、患者自身も積極的に質問や意見を述べる姿勢が印象的でした。医学的な説明だけでなく、患者との信頼関係を築くコミュニケーションが重視されていることを実感しました。
米国の医療体制についても、多くの学びがありました。Physician Assistant(PA, 医師の診療を補助)やNurse Practitioner(NP, 高度な実践能力を持つ看護職)が病棟管理、処方、患者説明、手術助手などを担い、医師と分業して診療を進めている点や、電子カルテを通じて他施設の情報を確認しやすい点は印象的でした。また、米国の移植医療では、Organ Procurement Organization(OPO)を中心に、臓器提供から摘出、搬送、移植までが組織的に調整されていました。高い症例数の背景には、単に臓器提供数の違いだけでなく、こうした制度や人的体制、多職種の明確な役割分担があることを実感しました。
休日には、ワシントンD.C.やニューヨーク、シカゴ、トロント、ナイアガラの滝、ピッツバーグなどを訪れ、北米での生活や文化にも触れることができました。実習だけでなく、都市ごとの雰囲気や文化の違いを自分の目で見ることができ、非常に充実した1か月となりました。
最後になりますが、このような貴重な機会を与えてくださった吉住朋晴教授、橋元宏治先生、第二外科の先生方、ならびに現地でご指導・ご支援いただいた南祐先生、Cleveland Clinicの先生方およびスタッフの皆様に心より感謝申し上げます。今回の経験を今後の修学・臨床研修の学びにつなげ、さらに研鑽を積んでいきたいと思います。

Cleveland clinic前にて

Cleveland clinic前にて

臓器摘出に同行

臓器摘出に同行

機械灌流装置(NMP)

機械灌流装置(NMP)

深水秀さんの実習報告

米国クリーブランド・クリニックでの臨床実習報告

九州大学医学部医学科6年 深水 秀

2026年5月18日から6月12日までの4週間、米国クリーブランド・クリニック Hepato-pancreato-biliary & Transplant Departmentにおいて、橋元宏治先生のご指導のもと臨床実習を行いました。
将来は海外での診療にも携わりたいと考えており、大学低学年の頃から本プログラムを志望していました。世界有数の移植医療施設である同院で実習を行いたいと考え、参加を希望しました。このたび念願が叶い、多くの学びを得る貴重な機会をいただけたことを大変嬉しく思います。

実習

私はHepato-pancreato-biliary & Transplant Departmentに所属し、回診、外来、手術見学に加え、臓器摘出手術(procurement)にも同行し、移植医療の幅広い診療にチームの一員として参加しました。その中で、日本の医療との多くの違いを実感しました。
特に印象的だったのは、多職種がそれぞれの専門性を発揮しながら、明確な役割分担のもとで一つのチームとして患者診療にあたる体制でした。医師に加え、Nurse Practitioner(NP)、Transplant Coordinator(TC)、Transplant Assistant(TA)、Clinical Assistant(CA)などが緊密に連携し、診療を支えていました。
回診では、NPが患者の状態を的確に把握し、医師と治療方針を相談しながら診療を進めていました。日本では若手医師が担うことの多い術後管理や患者対応の一部をNPやCAが担うことで、医師は手術や高度な意思決定などに、より多くの時間を割ける体制が整えられていました。TCやTAは検査・受診の調整や他職種との連携を担い、診療が円滑に進むよう支えていました。
外来でも同様に役割分担が徹底され、情報整理や検査結果の確認、診療記録の作成などを各職種が分担することで、医師はカルテ入力に追われることなく患者との対話に集中できていました。診察室では職種や立場を問わず活発に意見が交わされ、患者を中心としたチーム医療が実践されていることを実感しました。
手術室では、和やかな雰囲気のなかでも、外科医・麻酔科医・看護師が常に密接なコミュニケーションを取りながら手術を進めていました。職種や経験年数に関係なく意見を交わし、互いの専門性を尊重しながら安全な医療を提供する姿勢は非常に印象的でした。
さらに、臓器摘出手術(procurement)には3例同行する機会をいただきました。米国では臓器調達機関(OPO:Organ Procurement Organization)が臓器提供全体を統括し、各施設と連携して効率的に臓器提供が行われています。私たちもOPOが手配した車両で提供施設へ向かい、複数の移植チームが迅速かつ組織的に臓器を摘出する様子を見学しました。日本では経験することが難しい臓器提供システムや、移植医療を支える組織的な体制について理解を深めることができました。

実習を通して学んだこと

今回の実習を通して最も強く感じたのは、世界トップレベルの医療が、個々の医師の技術だけでなく、多職種が互いの専門性を尊重しながら協働する文化によって支えられているということでした。あらゆる場面で活発に意見が交わされ、それぞれが主体的に最善の医療を追求する姿勢は、日本の医療のあり方を改めて考える貴重な機会となりました。

生活

週末を利用して、ワシントンD.C.、ニューヨーク、シカゴ、トロントなどを訪れ、米国の歴史や文化、雄大な自然に触れる機会にも恵まれました。また、現地で研究員としてご活躍されている南先生には生活面を含め多くのご支援をいただき、海外で研究・臨床に取り組む先生方の日常に触れられたことも、大変貴重な経験となりました。

最後に

この4週間の実習は、移植医療への理解を深めるとともに、自身の将来について改めて考える貴重な機会となりました。多職種が互いを尊重しながら協働する姿勢や、積極的に学び意見を交わす文化に触れられたことは、大きな学びとなりました。
今回得られた学びを今後の臨床研修や研究に生かし、国際的な視野を持った外科医を目指して今後も研鑽を積んでいきたいと思います。
最後になりましたが、このような貴重な機会を与えてくださった吉住教授をはじめ九州大学大学院消化器・総合外科(第二外科)の先生方、橋元先生をはじめクリーブランド・クリニックでご指導いただいた先生方、現地で支えてくださった皆様、そして留学を支えてくれた家族に心より感謝申し上げます。

橋元先生のオフィスにて

橋元先生のオフィスにて

Cleveland Clinic の前で

Cleveland Clinic の前で

Cleveland モニュメントの前で

Cleveland モニュメントの前で

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