学生生活

2010年07月12日

国際・留学

医学生の英国大学医学部への短期留学



英国大学病院での実習を通して
九州大学医学部医学科6年 南満理子


 2010年2月25日。私は北部イングランドにあるニューキャッスルという街に降り立ちました。イギリスで1カ月の病院実習をするために費やした準備期間は約8カ月。「ついにイギリスに来た!」とワクワクした気持ちの私を迎えてくれたのは、いかにもイギリス、といった風のどんよりとした曇り空でした。そして風の冷たいこと。浮き立った気持ちが一瞬でシュンとなり、同時に不安感がこみ上げてきました。見知らぬ土地で、1カ月の実習。自分の英語で通じるだろうか。ついていけるだろうか。
 しかしいざ実習が始まってみると、幸か不幸かそのように不安がっている暇はありませんでした。ニューキャッスル大学の実習プログラムでは1週間ずつ4つの科を回り、前半2週間は必修科を2つ、後半2週間は事前に希望を出した2つの科を回ります。財団から派遣された留学生は私を含めて4人、基本的には2人1組での実習です。私の組は最初の1週間は消化器外科。外科の先生というのは日本でもイギリスでも話すスピード(と歩くスピード)がとても速く、初日から英語の洪水に浸かることになりました。そしてここで、実習期間中、最大と言ってもいいカルチャーショックを受けました。手術室に入ってみると、なんと、麻酔科医が患者さんの側でコーヒーを飲んでいるのです。この事実は以前から知っていたものの、目の当たりにするとショックという他ありませんでした。茫然と見つめる中、麻酔科医は何食わぬ顔で新聞を広げてクロスワードをし出す始末…。これには思わず苦笑い。院内感染防止のため医師の白衣すら禁止した国なのに、「これってありなの!?」と思わず叫びたくなるような出来事でした。しかし、逆にイギリスの学生が日本に来れば、「手術室の中では神経質なまでに『清潔』にこだわるのに、白衣を着るのはいいの?」と思うかもしれないので、お互い様なのかもしれません。
 カルチャーショックと言えばもう1つ。ある科を実習中、ニューキャッスル大学の医学生数人とスタッフルームで一緒になった時のことでした。お茶を飲もう(もちろん紅茶)、ということになり男子学生が1人、準備を始めました。手伝おうと立ち上がったところ、座ったままだった女子学生が一言、”He’s a boy, so don’t worry.”日本とは全く逆の発想に思わず目を白黒させてしまいました。そうか、イギリスが紳士の国というのはこういうことなのか、と納得したエピソードでした。
 イギリスでの1カ月の病院実習ではこの他にも書ききれないほど様々な発見がありましたが、特に次の2点が私にとっては収穫でした。1点目、科学としての医学は世界で共通のものだとしても、文化・社会的側面を持つ医療は国によって違うということ。これまでは日本の、特に自分の大学の医療しか知らず無意識にそれが絶対だと思っていました。しかしイギリスの医療を見て、また他大学からの派遣生の話を聞いて日本でも大学によって状況が異なることが分かりました。ある病気に対して、患者さんに対してのアプローチの仕方は、自分が知っているものとは別の方法があるのかもしれない。そう考えることが必要だということに気付きました。そしてもう1点は、医学という専門分野でコミュニケーションを取るには英語の上手・下手はあまり関係なく、最低限の医学的知識とコミュニケーションを取ろうとする積極性が大事だということです。例えば消化器外科での実習中、毎朝回診がありました。最初はさっぱり分からず、懸命に耳をすまし分からない単語は辞書を引き、それでも分からないと先生に質問し、といったことを繰り返しました。すると5日目くらいになると患者さんの名前を聞いただけで顔や症状が思い浮かぶようになり、また先生方のディスカッションにもついていけるようになりました。そういうものなのです。
 最後に。実は、心残りが1つあります。あるGeneral Practitioner(いわゆる家庭医)の先生と話している時、日本の医療制度について根掘り葉掘り聞かれました。しかし十分に答えることができず、それに対しイギリスの医療制度について誇らしく語るその先生を見て、少し悔しく思いました。次、外国に行く機会があれば今度こそ日本の医療制度についてきちんと説明したい。それが今の私の宿題です。

☆実習中に書いていたブログ:http://ameblo.jp/newcastle2010/
英国大学病院実習に興味のある方の参考になれば幸いです。


医学生の英国大学医学部への短期留学

このプログラムは、財団法人医学教育振興財団が日本国内の医学生を対象に募集しているプログラムです。6年次進学直前の春休み期間(主に3月)に、以下の5つの英国大学医学部のいずれかにに派遣され、主として臨床実習を体験します。費用は自己負担ですが、財団から10万円の旅費援助があります。選考に当たっては、医学部教務委員会で学内選考(書類審査と英語面接)を行い、1〜2名を財団に推薦しています。また、申請に当たってはIELTS(International English Language Testing System)のAcademic Moduleを受験していることが必要です。国外の医学部で臨床実習を経験できる機会は極めて限られています。積極的な参加を期待しています。

九州大学医学部 平成21年度教務委員長 横溝岳彦(医化学分野)

派遣先
ニューキャッスル大学医学部/サウサンプトン大学医学部/ロンドン大学セントジョージ校医学部/ペニンシュラ医科歯科大学医学部/オックスフォード大学医学部

医学教育振興財団のホームページ
http://www.jmef.or.jp/

申請に当たっての詳細は、医学学生係までお問い合わせ下さい。
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