教授からのメッセージ

教授からのメッセージ

Interview

医学を志されたのはいつ頃ですか。

 高校生の時です。私は宮崎県の宮崎西高校の理数科を卒業したのですが、大学への進学のため、志望校を絞る必要がありました。私の両親は共に小学校の教員で、幼い頃から働く母を見て育ち、私も資格を持って生涯に渡り働ける職業に就きたいと思っていましたので、将来の職業に活かしていける学部を希望しました。教職に対する憧れもあったのですが、クラスが理数科で医学部を目指す人が多かった影響もあり、医師を目指すことにしました。

 高校を卒業後、名古屋の予備校で学んだのですが、九州を離れてみると九州の良さが見えて来てきました。九州の人の温かさ、街の雰囲気がいいと思うようになり、九州で生まれたのだから、九州大学で学びたいと思うようになりました。
 

どのように学生生活を過ごされましたか。

 下宿先や部活、医学部の学生生活で、たくさんの友人が出来、楽しく充実した学生生活でした。

 今は九州大学の六本松キャンパスは伊都に移転してしまったのですが、私の時は教養課程を六本松キャンパスで学びました。下宿先は一軒の家を数人の女子学生で利用するタイプのもので、様々な学部の学生が住み、文学部、農学部といった他学部の友人が出来ました。一緒に料理をしたり、夕食後は誰かの部屋に集まり、女性同士ということもあり、お酒ではなくお茶を飲んでお話したりと、帰宅後も楽しく過ごしていました。

 部活は九州大学マンドリンクラブに所属していました。毎日の練習はもちろん、年に3,4回の合宿、定期演奏会も年に2回行っていて、結構、活発に活動している部活でした。部活は忙しかったですが充実して打ち込みました。今もマンドリンクラブは九大全学のサークルとして続いています。

 そして医学部では、入学のときに出席番号順に6人程度の班分けがあり、低学年時の実験から高学年時の病棟実習まで同じメンバーで学びました。6年間を一緒に学んでいくのですからとても親しくなりますし、夜はお酒を呑みいき、医学のことや様々なことを語りあいました。学年は100名程度いるのですが、女子学生も7名いて、休みの日には女子の友人や班の仲間と一緒に、キャンプや遊園地まで足を伸ばしたりしていましたね。
 部活以外の放課後の時間は、生化学の教室で過ごし、抄読会に参加させて頂き、6年次には実験もさせて頂きました。
 

現在の専門に進まれることを決められたのはいつ頃で、そのきっかけをお聞かせください。

 現在と違い、私たちの頃は、卒業時には自分の専門を決めないといけませんでしたので、6年生のときに決めました。生化学教室に出入りさせて頂いていたこともあり、基礎研究者も魅力的に感じたのですが、やはり患者さんに接することが出来る臨床医を選びました。内分泌をやっている内科も迷いましたが、産婦人科は生命の誕生から老年期の病気まで、女性の一生を診ることが出来る科であることを魅力に感じ、産婦人科へ入局しました。また、女性医師の存在が患者さんに一番喜んで頂けるのは産婦人科ではないかと思ったことも理由のひとつです。実際は、産婦人科は女性医師の方が絶対によいということはなくて、長時間の手術や、力のいる分娩など男性の方が向いている場面もあります。そして、患者さんと話をする際に、女性医師であると気持ちが共感できるところもありますし、男性医師だとまったくの第3者の立場で話を聞くことが出来ます。臨床の現場を経て、男性がよい、女性がよいということはなく、どちらの医師も求められているのだと感じます。
 

研究についてお聞かせください。

 初めて本格的に研究に取り組んだのは、アメリカのラ・ホヤ癌研究所でした。

 私は医学部卒業後、臨床医として3年間勤務し、産婦人科医局の先輩と結婚をしました。その後、夫の留学についていくことになり、3年間をアメリカで過ごしました。夫の紹介で現地の研究所に勤めることになり、初めは見習いという形で採用して頂いたのですが、ポスドクの身分にして頂き、研究に取り組みました。本格的に研究に取り組むのは初めての上、まだ英語も充分に習得していなかった私に、ボスは手書きを交えて実験のプロトコールを示し、研究の指導をしてくださいました。そうして、細胞やDNA、蛋白などについて研究で実験を重ね、徐々に研究というものがわかるようになり、実験データが増えていくことを面白いと感じました。そうした中、私が携った研究テーマが臨床応用の薬につながるかもしれないということになり、自分の研究が将来的に患者さんの役に立つことの素晴らしさを身を持って体験し、非常に充足感を感じました。

 このアメリカでの研究経験が、人に役立てるという意味で臨床と同じく研究も重要に感じた一番のきっかけとなり、帰国後も臨床と研究を続けていこうと思いました。 帰国後は別府の生体防御医学研究所ゲノム創薬治療学分野で臨床、研究に携ることが出来、益々、その思いが強くなりました。

加藤先生は2児の母親でもいらっしゃいますが、育児と仕事の両立は大変でしたか。

 振り返ると子供が熱を出したり、苦しい場面はたくさんあったと思いますが、その時は乗り超えることに一生懸命でした。それでも、仕事をきつい、やめようと思ったことはないです。両親や夫、職場の方たちに支えられながら、何とかやってこれたと思います。

 私は第一子をアメリカ滞在中に出産しました。そこでは産後に女性がフルで職場に復帰することを当然のこととして捕らえており、誰も私が産後に辞めるということを考えてもいませんでした。周りも出産育児を理由に仕事を辞める人はおらず、私も8ヵ月の出産育児休暇の後、自然に職場復帰することが出来ました。女性が出産後も変ることなく働くという認識が出来ていることをとても印象的に感じ、それは、その後の私のワーキングスタイルに影響をしていると思います。

 それから、帰国後、生体防御医学研究所で勤務しているときに第二子を出産し、そこでも同様に両立できる環境で私は幸運であったと思います。
 

女性医師、研究者が育児と仕事を両立するのに大切なことはなんでしょうか。

 ひとつには、夢を持つことが大切だと思います。
 私は婦人科が専門で、難治性の難しい病気の患者さんも多くいらっしゃいます。私の夢はそういう患者さんへの新しい治療法を見つけ、多くの患者さんの力になりたいということです。臨床と研究に携わり、一貫して持っている夢で、まだ到達はしていませんが、スタッフと共に目指し、日々努力しています。そうした夢を持つことが力になると思います。

 それから、自分ひとりでは育児も仕事も出来ないので、周囲の人への感謝を忘れないでいて欲しいです。

 あとは、人生はいい時もあれば悪い時もある。悪い時もそれを乗り越えていくといいときも来るし、今がうまくいっていてもそれが将来にずっと続くとは思わないで、そのままを受け入れて常にフラットな心を持って、物事に取り組むことも大切であると思います。
 

今のやりがいと目標をお聞かせください。

 臨床医としてやりがいを感じるのは、やはり患者さんからお礼を言って頂いた時です。例えば、腫瘍が出来て手術前は苦しんでおられた患者さんが、術後に治られ、退院、そして外来を受診された際に「こんなに元気になりました。」とお礼を言って頂くことがあります。医師としての喜びを感じる瞬間です。

 また、研究者として世界にいる患者さんを救うこと、今まで治らなかった病気が治るように研究を続けていくことにもやりがいを感じています。

 そして、学生さんの教育です。もともと教職に憧れがあったこともあり、指導していくことも楽しいと思いますが、それに増して産婦人科の魅力をもっと多くの学生に伝えたいと思っています。
 産婦人科は他の診療科にない魅力があると思います。女性の一生を診ることが出来ること、特に生命の誕生で重要な役割を医師として担うことが出来るのは大きな喜びだと思います。九大病院では地域の提携病院と連携し、学生が実習で分娩に接する機会を増やしています。
 さらに診療科としての幅の広さも魅力のひとつだと思います。帝王切開などの手術は外科的側面がありますし、内分泌学、発生学、胎児のお母さんが合併症を患っていれば内科的側面を持ちます。また女性のヘルスケア、特に肉体を極限まで酷使する女性アスリートの健康管理などは、現在注目を浴び、産婦人科学会などで取り組まれています。こうして、産婦人科医という仕事を通じて社会貢献できることも魅力だと思い、学生に伝えていきたいと思います。
 

学生さんにメッセージをお願いします。

 学生時代はやりがいのあるものを見つけてのめりこんで欲しいと思います。そして今を楽しみつつ、将来の自分も育てていって欲しいです。私は学生時代の生化学教室で研究をさせて頂けたことで、アメリカで研究のチャンスに飛び込んでいけたと思います。学生時代の生活は将来に繋がると思います。それから、私がよく学生さんに伝えるのは、国際的な感覚を身につけるように心がけてくださいということです。英語を学ぶこともそうですし、外国人の方と積極的に交流する機会を持ってください。日本にいてもサークルなどそのようなチャンスはたくさんあると思います。学生時代に地道にやって欲しいと思います。

 後は、リサーチマインドを持つことです。リサーチマインドとは、不思議だと思い物事の原因を探る心、探究心といったらわかりやすいでしょうか。それを持っていると目先のことだけではなく、多くの事柄につながっていけると思います。

加藤教授について

加藤 聖子 教授
医学研究院 臨床医学部門 生殖発達医学講座 生殖病態生理学
趣味は映画鑑賞と読書、たまにの水泳。映画はよくご主人と鑑賞されるそうです。結婚式でもよくご挨拶を依頼される加藤教授ですが、式でいつも話されるのは、「夫婦円満の秘訣は相手の気持ちになって考えること。自分が腹が立つことがあっても、怒っていると相手も嫌な気持ちになっていることを考えること。」
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