在学生の声

在学生の声

内なる心(feeling)を
大切にしてほしい


平成26年度 医学科6年 仁田原 憲太さん

医学を志したきっかけを教えてください。

 高校一年生くらいまでは、法律関係の職業を考えていましたが、大学のオープンキャンパスに参加して、医師の根本にある「人を助けたい」という気持ちに魅力を感じ、医師を目指そうと思いました。医師は診療に来られた患者さんひとりひとりに向き合い、どんな人が来ても、その人にベストな方法で対処するように務めることができる職業です。そのため自分の中にある倫理感を大切に出来る職業ではないかと思いました。

 高校時代の得意科目は世界史、英語といった文系の科目だったのですが、医学部への進学を決めた後は、理数系の科目を重点的に学習しました。仕事だけが人生ではないのですが、人生の大きな要素を占めると思います。その重大な決定を高校での科目の得意、不得意で選択するのは違うと思います。自分の場合、目標を定めて学習を進めたのでがんばれたと思います。
 

入学してからの学習についてはどうでしたか。

 受験勉強であれば、中学で学習したことの応用を高校で行う、学習の積み重ねが重要ですが、医学科での学習は、受験勉強でいう「中学からの底上げ」部分がなく、ゼロからのスタートです。各教科、並行して学習する上、覚えることもたくさんあり、気を抜くと取り残されてしまうかもしれません。 ただ、ゼロからのスタートであるからこそ、高校までの成績に左右されないと思います。高校までは、先天的なセンスが影響する科目というものがあるかも知れませんが、医学科での学習はセンスが問われるわけではなく、努力が結果に結びつきやすいと思います。

 高校時代は世界史が好きだったのでそれを例に出しますが、世界史は各国の歴史等の相関性を念頭において学習すると記憶しやすく、医学科での学習も同様に、体の組織の役割や薬の効用などの相関性を感じながら学習すると、単純的な記憶の作業として学習するよりは、効率的に進められました。高校までの、継続して学習する姿勢や、思考のプロセスは、医学科での学習に役立っていると思いますが、単純な受験での成績は、大学に入学してからは関係ないと感じます。
 

お勧めの学習方法を教えてください。 

 最近強く思うのは、やはり読むだけではなく手を動かさないと残らないなということです。裏紙などに白紙の状態から書いていくことをお勧めします。例をいうと、医学科の学習では体の各器官を白紙の紙に書き起してみる、受験でいうと数学の間違った問題の解法を始めから書き起こしてみる。そうすると初めは完全には書き起こせないかもしれませんが、自分がどこを曖昧に記憶しているかが良くわかると思います。能動的に学習することが大切だと思います。
 

学科の授業外で印象に残ったことを教えてください。

試合の様子
試合の様子
 部活での経験が印象に残っています。大学では医学部のラグビー部に所属し、4年生のときにはキャプテンをさせてもらいました。僕は大学入学前からラグビーをやっていたのですが、僕がキャプテンをしていた時の所属人数20数名のうち、経験者は3,4名で残りはみんな未経験者でした。高校では帰宅部だった人、野球などの他競技から転身して来た人、それぞれのレベルに合わせていろんな人をまとめていくのは大変でしたが、みんながひとつの目標に向かって進もうとする感じはとても好きでした。
 
 大学では、スケジュール組み、交通等の諸々の手配など、高校までは監督がやってくれていた庶務的なことをすべて自分達でやる必要があり、それが良い経験になりました。新入生の勧誘や日々の練習のメニュー、遠征の段取りなど。特に金銭の収入、支出の管理は信用に関わる部分で注意が必要でした。

 自分がキャプテンを務める中では、まずチームの協調性を大切にしていこうと思い、チームが強くなるため、決して練習は楽ではありませんが、楽しくやっていくことを心がけました。 どこまでも練習を厳しくするわけにもいかないし、どこまでも緩くできるわけでもない。自分で基準を持ち、チームの雰囲気を大切にしていこうとしました。その結果として、その年の第64回西日本医科学生総合体育大会で3位の成績を残すことが出来たのはよかったです。ちなみにその翌年は準優勝とコンスタントに成績を残せているので嬉しいです。

第64回西日本医科学生体育大会(3位)
第64回西日本医科学生体育大会(3位)
 もしかしたら、医学部は勉強だけのイメージを持っている人もいるかもしれませんが、実際は運動系も文化系も、濃密に部活に取り組んでいる人が多いです。課外活動は時間もとられますが、代わりに時間の管理能力が身につき、また運営能力といった学業外での能力が身につくと思います。人と関わっていくのは難しい面もありますが、医師と活動していく中でも、様々な人と関わっていくことは必須です。そういった意味でも社会人になる前にさまざまな活動でそういった面を経験することは良いことだと思います。そして、先輩や後輩、または同期など、人と人とのつながりは大切です。部活などの活動では、学年を超えて交流を持つことができます。僕も医師として働いている部活の先輩に臨床実習の際にお世話になりそのことを実感しています。

海外での臨床実習について聞かせて頂けますか。

 僕は、英国のオックスフォード大学と米国のクリーブランドクリニックでそれぞれ1ヶ月の臨床実習を行いました。オックスフォードでは内科、クリーブランドでは外科と非常に充実した海外での実習を経験することが出来ました。

John Radcliffe病院の外観
John Radcliffe病院の外観
 まず、オックスフォード大学ですが、これは財団法人医学教育振興財団の主催する留学プログラムの一環で、英国の様々な大学に日本の学生が留学するものです。僕も医学部長から推薦を頂き、医学教育財団の選考を経て、参加させて頂くことが出来ました。配属先はオックスフォード大学付属John Radcliffe病院で僕と滋賀県の医学生の2名が派遣されました。僕はその病院の中でAcute General Medicine(急性期一般内科 以下、AGM)を選択して実習を行いました。
 オックスフォードにおけるAGMとは、外傷や緊迫した救命救急が中心の救急部(Emergency Medicine)と異なるもので、内科的治療を要する外来患者の症状を評価し、治療方針や入院または帰宅の判断、専門的な治療が必要な場合は 他科へ治療を依頼したりします。おおざっぱに言うとAGMは日本の救急部と総合診療科を足したイメージです。
オックスフォードでの実習 英国では白衣着用しない
オックスフォードでの実習 英国では白衣着用しない
 AGMには、救急車で搬入されたり、ご自分で歩いて来られたり、意識が朦朧とした人、アルコール中毒の人など、重症度を問わずあらゆる症状の人が受診されます。僕はそこでオックスフォードの学生と、日本でいう研修医に準じるようなことをさせて頂き、学生ながら夜間の当直も経験させて頂きました。症状の経過や服用している薬についての英語で問診を行い、必要に応じて脈の確認や、感覚を確かめたりする神経学的検査などを行いました。日本からの留学生である自分が円滑に患者さんと接することが出来るか非常に緊張していたのですが、患者さんも医療スタッフも嫌な顔ひとつせず受け入れてくれました。オックスフォード大学は、通年であらゆる国から短期留学生の受け入れを行っており、また病院に勤務する医師も英国外の外国の方が多く、僕が違和感なく場に入れたのもその要因があるかもしれません。アメリカ、ドイツ、オーストラリアからの留学生と一緒に実習を受けることが出来、それぞれの国の医学のことや文化のことなどを情報交換し、とても刺激になりました。

 またオックスフォード大学病院の入院期間の短さは印象的でした。重篤な患者であっても、入院した患者さんが急性期を越えるとすぐに、コミュニティホスピタルといった療養型の病院へ転院するか、もしくは自宅で療養し、一般の外来の診療所で診療を受けて頂くようになっており、医療機関の連携が確立しているなと思いました。平均で3−4日ぐらいの在院日数だったと思います。

 臨床実習とは別に良かったのは、オックスフォードの街が歴史を感じる非常に美しいところだったことです。飲食店に入ると13世紀に建てられた建物で、天井も低く、白黒の古い写真が壁中に貼ってあったりと、自然に歴史と街とが融合しすごくいいところでした。

クリーブランド実習
クリーブランド実習
 それから、クリーブランドでは、米国クリーブランドクリニックで移植外科での実習をさせて頂きました。米国では脳死間移植が主で、臓器の摘出を専門とするクリニックも存在します。実習では法的な制限から移植のレシピエント(臓器の受け取る側)の手術に入ることはできなかったのですが、ドナーの手術には積極的に参加することができました。米国は広いので臓器を受け取りにドナーのもとへは小型ジェットに乗って向かいました。病院が自前で飛行機を所有していることには驚きでした。
 
 移植を多く見てきて思ったことは、移植の原因として事故の多さです。交通事故などのほかに銃の事故が多かったです。子供が銃で遊んでいて暴発、脳死、移植というパターンをみると心が痛みました。国民の意識の違いや飛行機、移植施設などのハード面での違いは大きいですが、移植にはさまざまな要因が絡んでいるのだと実感しました。

これからの進路を教えてください。

 医師国家試験に合格できたら、2年間の卒後臨床研修に進んでいくのですが、僕は東北の石巻の病院で卒後臨床実習を行う予定です。石巻の病院を希望したのは、北の方で暮らしてみたい憧れや、その病院自体の魅力というのもありましたが、大きな動機はやはり東日本大震災です。災害時にその病院で頑張る医師の活動を報道等で知り、目の前の困った人を助けられる医師という職業の素晴らしさを再確認できました。自分の力は微々たるものだとは思いますが、少しでも被災された方のお役に立てればと思います。

 卒後臨床研修の後は、小児や周産期の方を専門に進んで行きたいと今は思っています。入学当初は外科がかっこよくていいかと思っていたのですが、5、6年生の臨床実習で様々な診療科を回り患者さんと接する中で、自分は小児や周産期が性に合っていると感じました。やはり小児科での子供の患者さん接したことや、周産期でのお産に立ち会ったことなどが大きかったです。特に多胎の出産は緊張感があり、そして感動するものでした。

 進路を考える上でも感じるのですが、医師は働く地域や分野の選択において、自分の希望通りに選ぶことの出来る数少ない職業ではないかと思います。

最後に医学を志す学生さんにメッセージをください。

 目先の損得勘定ではなく、自分の内なる心を大事にして欲しいです。そして、一度決めたらその意思を曲げずに進んでください。例えば医師を目指したいと思ったら、その気持ちを尊重して、曲げることなく頑張って欲しいと思います。自分を振り返ると、ラグビーを始めたことも、留学、これから小児や周産期の分野を希望していることも、「これいいな。」というフィーリングを自分の中で大事にしてきた結果だと思います。自分の内なる心を尊重することが、努力を継続する大切な要素であると思います。

 また、犠牲を払って得られたものは、自分の中に蓄積され、行動が習慣になっていくことを伝えたいです。例えば、留学プログラムなどは誰しもが参加するものではなく、自身が希望して初めて参加することが出来るもので、応募する際は、申込みの手続きや選考試験の受験、渡航が決まったときは、ビザの申請や様々な手続きなど、負担に感じるときもありました。それでも、努力して得られるものは大きかったと思います。そして、一度経験したことを次に取り組むときには、より負担を感じずに出来るようになると思います。逆に一度避けたことは次も避けてしまうように習慣的に思います。うまくいかない時もありますが、経験を積み重ねることで自身がステップアップし、先には、次の楽しいステップが待っているものです。そういうことを感じて欲しいと思います。

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