在学生の声

在学生の声

やりがいがあり、成し得がたいことが
出来るようになる。


平成28年度 医学科6年 橋本 卓磨さん

医学を志したきっかけを教えてください。

 医師になりたいと思った動機が他の人とは少し変わっているかもしれませんが、小学校2年生のときに急性腎炎になり、自分の体について知りたいと思ったことです。 医師の先生の説明を受け治療自体は問題なく進んでいったのですが、先生からの説明を聞いても、自分の体の中で起こっている変化についてわからないことを悔しく思い、「知りたい、医師になろう。」と思いました。他の医療職でも良かったように思いますが、患者である自分に一番関わってくださったのが医師の先生でしたし、チーム医療において主導的に進めることができる立場である医師が一番良いと思い、医師を目指しました。人を助けたい、人の役に立ちたいと思ったのは、それよりもずっと後からです。 
 

受験勉強は大変でしたか。

 大変といえば大変だったと思いますが、周りも難関大学の受験など一生懸命に取り組んでいたので、やり遂げられたと思います。一人では難しかったのかもしれませんね。受験勉強自体はあまり好きな方ではありませんでした。偏差値など数字の上での評価には疑問もありました。でも、多少嫌なことでも取り組まないといけないと思っていましたし、自分以上に努力している人も多く、やはり努力に勝るものはないと思います。
 

入学してからの学習についてはどうでしたか。 

 僕たちの学年のカリキュラムでは、1年生は主に教養科目を伊都キャンパスで学び、週に1日だけ専門課程を病院キャンパスで学びました。2年生から本格的に専門教育課程の授業が始まり、まずは基礎の科目から勉強します。その後、3年生の後期から臨床の科目を学びます。5、6年生では臨床実習を行い実際の医療現場で患者さんと接しました。1、2年生の時は科目の学習内容が抱いていたイメージと違い、勉強している内容の意義があまり感じられずにいたのですが、3年生で臨床の科目を学んでみて、「あの時に学んだことってこういうことなのかな。」と思い、学習が不足していた自分を反省することもありました。5年生からの臨床実習では、投薬によって患者さんが治癒していく過程などを目の当たりにし、学問的な知識が実際の医療現場で使用され、効果を上げているのを見て感動しました。
 

授業で印象に残ったことを教えてください。

 5年生の臨床実習での、産婦人科の患者さんのことが印象に残っています。子宮頸がん温存手術を受けられて回復し、体外受精を経て妊娠された患者さんで、予定帝王切開にて出産することになっていました。日常の検査では問題がなかったのですが、その後、胎児が危険な状態になり緊急帝王切開の手術をすることになりました。その日、僕は既に帰宅していて、18時の病院からの着信に気がつかず、20時に病院に到着したときには手術の最中でした。出血も多く、輸液も含めて全部で7リットルも出血していて、大変危険な状態であるように思いましたが、深夜0時までに及ぶ手術は無事に終えることが出来ました。その後、患者さんも赤ちゃんも退院し元気に過ごされているようです。

 この件で医療現場の素晴らしさを実感しました。産婦人科、麻酔科の医師とコメディカルスタッフの専門性の高さや、深夜でもそれぞれのスタッフを備えることができる病院の組織力、そして高度な医療機器が揃いはじめてこうした危機を救うことが出来ること、何よりそのような患者さんを前に、冷静に自身の役割を発揮できる医療スタッフのプロとしての在り方に感銘を受けました。そして、この患者さんのように、医学、医療の進歩によって、以前は子宮全摘出でしか救えなかった方も子宮を温存し、不妊治療で子供を授かり、危機に瀕しても適切な治療で問題なく救っていける。現実の事例を目の当たりにし、医療をとおして人に深く介入できる医療の重要性を再認識しました。

 反して、糖尿病の状態の良くない入院患者さんの病室にあんパンが置かれているのを見たときには心が痛みました。患者さんが病院の売店で購入したと思われるのですが、すぐに買える環境があることがいけないのかとも考えさせられました。買えない環境づくりは、外来患者さんも利用されているので難しいことに思い至り結論は出ませんでしたが、病院は人々を健康にすることで幸せを提供する機関であるべきだという視点は大切にしたいと思います。

留学経験について教えてください。

メモも使用し説明して頂いた
メモも使用し説明して頂いた
 6年生の夏にドイツのグーテンベルク大学 麻酔科で1ヶ月間、臨床実習に参加させて頂きました。

 日本での臨床実習と大きく違う点は、ドイツでは学生もスタッフの一員として医療に参加し、患者さんも誰が学生であるかなどは気に留めていないことです。学生は手術中に薬剤を投与するための点滴のルート確保や、全身麻酔中の患者さんの気道を確保するための気管挿管などを主に担当します。日本の臨床実習ではそこまで出来ませんので、良い経験になると思い留学を希望しました。
 実際の現場では、力加減が分からず挿管がなかなか入っていかないなど、本で得た知識との隔たりを感じました。体格の良い方などは特に入りづらく、そんなことは教科書には書かれていませんでした。それから、処置することへの責任を強く感じました。自分の確保したルートから麻酔中の血圧の低下を防ぐ薬剤が投与された時は、血圧のモニターから目が離せず、見入って上昇を待ち構え、上昇するとほっとしていました。処置を行うことを怖いと感じることもありましたが、「やらせてもらえることはやろう、そしてこの実習中に少しでもうまくなろう。」という思いが一番でした。
参考にするため 撮らせて頂いた手元
参考にするため 撮らせて頂いた手元
 思っていた以上にハードルは高かったですが、行って良かったと思います。自分が出来ないことを認識できて、出来るようになりたいと思えたことが収穫でした。 看護師さんにチューブとルート確保用の針で練習するように薦められ、医師の先生に持ち帰りの許可をお願いしたところ、"Of course, but I do not care even if you hurt anyone." と冗談めかして持ち帰りを許可してくださいました。積極性を持つことが大事で、それがあれば何とか乗り切ることが出来ると思います。違う環境に身を置き、まずは自分にないものを自覚することが大事だと思います。
 
 それから、ドイツでは医学大学の数が少ないこともあり、一度他学部に入学しそれから医学部に進学する人も多いようでした。僕を案内してくれた学生の方は、医学部に進学する前の3年間、経済学を学ばれていました。教養を深めるという意味では良いなと思いましたし、こうした文化の違いに触れられることも刺激になりました。
 
 このプログラムは麻酔・蘇生学分野の外教授が進めておられ、今年は治安の良くない時期と重なったのですが、ご尽力を頂き参加できるようになりました。貴重な経験をさせて頂き外教授にこの場をお借りしてお礼申し上げます。

留学の際、言葉の壁はどのように超えられましたか。

 言葉については、日本語は細かい表現を行う言語だと僕は思っていて、日本語で言いたいことすべてを英語に変換するのは不可能だと割り切って考えていました。それでも医療用語の英単語は覚えておこうと思い、6年生の春からその勉強は始めました。実際に行ってみるとドイツ語しか話せない方もおられ、すべてドイツ語で説明されたのですが、なんとか雰囲気と状況で理解できるものでした。そもそも薬の名前も日本と外国では違いますので、分からない英単語が出てきたときは、「何に使うもの?」と、Whatと Howを多用して尋ね、教えて頂きました。理解できなかったものはカタカナで聞こえた音をメモし、部屋に戻りウェブ検索の予測変換などを駆使して調べたり、一緒に留学している同期と話し合って意味を理解するようにしていました。実習中にあまりに質問をし過ぎたようで、 "I can answer anything, ... but wait."と 返されたりして、日本ではあまり馴染みのない直接的な表現に海外の雰囲気を感じました。
 語学力は身に付けている方が絶対良いとは思いますが、それが無いからといって留学しない理由にはならないと思います。現地に行くと何とか乗り越えられるものだと思います。僕は凌いだという感じではありましたが乗り切ることができました。

今後の進路について教えてください。

 久留米の聖マリア病院で初期研修を行います。聖マリア病院を選んだのは、診療科が多いことと、一次から三次まで救命救急を受け入れていて、研修期間中に力をつけるため救急救命を経験したいと思ったからです。
 将来、進みたい診療科はまだ決まっていません。これからの研修期間中で自分の希望を絞っていきたいと思っています。医学を学ぶ前は将来を思い描いたりしていましたが、今でさえ目の前にすべきこと、出来ることが無限にあり、きっと研修期間中もそうだと思います。そのときに自分のすべきことをしっかりとやり、将来につなげていきたいと思います。 そして、学んだ知識やこれから身につけていく医療技術を社会に還元出来たらと思います。

最後に医学を志す学生さんにメッセージをください。

 医学部への進学を希望されている方は、そのまま目指して欲しいと思います。この道は大変だと思いますが、やりがいと他の職業では成し得がたいことが出来るようになります。他の学部でも学んだことは何かの形で将来の役に立つと思いますが、医学部は大学で学んだことや感じた経験が将来の職に分かりやすく役立てることが出来る学部です。僕は医学部で知りたいと思っていたヒトの体について知ることが出来ましたし、臨床医への希望をより強く持つことが出来ました。

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