在学生の声

在学生の声

令和4年度 医学科6年 上嶋 佑輝さん

たくさんの経験から、自分のことを知って、
自分にあった方法を見つけて欲しい。


令和4年度 医学科6年 上嶋 佑輝さん

医学を志したきっかけを教えてください。

 私が医師という職業を意識しだしたのは小学生の時です。小学生の時に中学校受験のために塾に入ったのですが、そこでは当時の私からみると勉強のできる人達が、こぞって医学部を目指していて、「医師って特別な職業なんだ。」と思いました。私は勉強すること自体は苦手ではなく普通に取り組めていたので、それまでは勉強することの理由を深く考えたこともありませんでした。しかし私が勉強することが誰かに役に立つことにつながる、とりわけ医師という職業においては患者さんの命を救うことにつながるなら、それはとてもいいことだという少し安易とも言える思いから、私も医学部を目指してみようと思いました。
 それから高校の文化際での経験で医師になりたいと明確に思うようになりました。私が通っていた高校の文化祭は、生徒に任される範囲が多く、生徒達が主体的に進めることが良い文化祭を作り上げるために必要となります。それには外部の業者さんとの打ち合わせや交渉なども含まれていて、悪く捉えると生徒がやる範囲を超えている程でした。ですが、私たちは、「信頼してもらえているからそこまで任されている。」と考えて取り組みました。特に、私は実行委員だったので、先々のわからないことについてたくさん考えながらやることを心掛けて、周りのみんなと協力して文化祭を無事成功に収めることができました。その時の達成感や、自分の努力が他の生徒や来場される方々に響くことの喜びがとても大きく、「私は周囲を先導して努力していくことによって何か人の役に立てる実感を得ることが好きなのだな。」とわかりました。その時に「患者さんの健康、延いては命のために努力できる医師は自分に合った職業ではないだろうか。」と思い、なんとなく医学部に行こうと思っていた気持ちが、医師になりたいという意思に変わったように思います。

 

受験勉強は大変でしたか。

 受験勉強は大変だったと思いますが、勉強することを習慣化することで、挫けそうになる受験勉強をなんとか乗り切ることができました。私は勉強に取り掛かるまでを、すごく億劫に感じる方だと自分で思います。そこで、一日の中でどの時間に何を勉強するかを決めて、それを毎日続けるようにしました。「やりたくない。」と思う前に手を付けるのがコツです。私は理系科目が得意で、国語や社会などの科目が苦手だったのですが、この方法で苦手科目も継続して学習が続けられたと思います。例を挙げると英単語の場合、英文を読んだ時にわからない単語をメモしてストックしておいて、覚えているか十問テストして、新たな単語も十個覚える、次の日も「十問テスト、十個暗記」をやる。それを毎日繰り返しました。一日のルーティンに組み込むことで、「勉強しなければ。」と思う心の負担が軽くなったと思います。
 受験勉強でうまくいくコツは、自分にあった方法を見つけて継続することだと思います。はじめから自分に最適な方法に当たればいいのですが、それはなかなか難しいと思います。私も自分に合ったやり方にたどり着くまで、何度も試行錯誤を繰り返してきました。たくさん試してみて自分に合った方法を見つけてみてください。それはきっと大学に入学してからの勉強でも、勉強に限らず皆さんが経験する様々なことできっと役に立つと思いますよ。

 

入学してからの学習はどうでしたか。

 九州大学では入学してから一年間、伊都キャンパスで基幹教育を学びます。基幹教育はいわゆる一般教養科目なのですが、「勉強が楽しかった、有意義だった、難しかった。」などという記憶は全くなく、最低限必要な勉強をこなしていました。伊都キャンパスでの初めてのキャンパスライフにも増して、入部した医学部空手道部での活動が楽しくて、病院キャンパスまで足繫く通っていたことが記憶に残っています。
 二年生から病院キャンパスで医学の専攻教育科目の講義が始まりました。まずは基礎医学から学ぶのですが、医学、医師についてあまり明るくない私にとっては、医学と言えば臨床のイメージが強かったため、基礎医学にはあまり興味が持てませんでした。テスト前には苦心しながら机にしがみついていたのを覚えています。三年生になり、いよいよ臨床医学の講義が始まりました。講義では今まさに臨床の場で活躍されている先生が、講義の内容に紐づいた臨床の現場の話を面白おかしく話してくださり、そこだけは集中して聞いていました。とは言いながらも、患者さんの顔が見えない、学問としての臨床医学には少し退屈さを感じていました。
 四年生になってから、COVID 19の影響のため授業はオンラインになり部活も休止になりました。自宅でオンライン授業は受講していましたが、やることは少なくなり、必然と自分についてゆっくり考える時間が持てるようになりました。そして、「これまで学んだことがあやふやになっている状態のままで次の段階へ進んでいってよいのだろうか。」ということに考えが及び、「もう一度、学び直そう。」と思いました。その後、基礎医学から学び直したのですが、講義に身が入っていなかったとは言え、重要なキーワードは覚えているもので、そのキーワードから掘り下げて深めていき、学問同士のつながりを意識しながら勉強することで、今回は学問としての面白さを感じることができました。ミクロレベルでヒトの体で起こった現象が疾患となって現れるというような、基礎医学と臨床医学の関連を理解することで興味深く学習することが出来ました。
 振り返ってみると、私にとってはCOVID 19が良い転機になったと思います。四年生の最後には、臨床実習を行うための通過試験であるCBTやOSCE(オスキー)などの試験が控えていたことも勉強のモチベーションを保つことに役立ちました。

 

部活はどうでしたか

 今まで少し触れてきた通り、本当に楽しかったです。私は幼い頃に空手をやっていて、中学、高校ではやっていなかったのですが、他のスポーツがあまり得意ではなかった、いや、めっきりだめだったこともあり、空手道部に入部しました。空手という競技ももちろん好きですし、それに加えて部員同士での飲み会も楽しく、刺激的な毎日を過ごすことができました。また主将も務めさせて頂いた経験も私にたくさんの学びを与えてくれました。空手道部を通して酸いも甘いも、たくさんの人と繋がる機会も与えてもらい、感謝しかありません。さて、部活動ばかりに注力して講義に身が入っていなかったとは言えど、試験勉強にはちゃんと取り組んでいました。でも、それも「空手をやりたい。」が主な原動力でした。試験を落とすと、部活どころの話ではないですから。試験前も、試験期間中も、部活が休止にならない限りは、道場で部活動を終えてから試験勉強をしていました。空手の時間は、勉強も含めて、他のことは一切考えないで、集中するようにしていて、それが良いリフレッシュにもなっていました。
 そして、空手道部で主将を経験させてもらったことで、様々な気づきもありました。空手部では主将を務める上で、たくさんのことについて考えを及ばせざるを得ない状況で、自分が他の人にお願いするのがあまり得意でないことなどの自分の限界やその対処方法、先々のことを見据えて行動できること、細かいことに気づいて気配りができることなどの長所を知ることもでき、たくさん学ぶことができたと思います。
 それから、後輩との関わりの中で、誰かの助けになれることの嬉しさも知ることが出来ました。自分なりに後輩のフォローをしながら、その人の成長が見受けられる瞬間があったりすると充足感も感じましたし、もし自分がその助けになれていたとしたならば、それはとても光栄なことだと感じました。

 

学校外で印象的だったことを教えてください。

 塾講師のアルバイトでは視野を広げてもらえたと思います。教える立場になって初めて気づいたのですが、勉強すること自体に得意、不得意があるのです。仮に不得意だったとしてもそれは全然悪いことではなくて、みんな他に秀でたところをたくさん持っています。私の知らないことをたくさん知っていて教えてくれたり、私が苦手とするコミュニケーション能力に長けていたりしているのを見て、「私はただ単に勉強が得意だった人に過ぎなかった。」のだと気づかせてもらいました。そして、少し失礼な言い方に聞こえるかもしれませんが、勉強が得意ではない人に教えるために、理解しやすい切り口を模索しながら伝えていくことは、今まで考えてもなかった面からアプローチが必要になったりと、今までに知らなかった面白さがありました。また、私はコミュニケーション力には自信がなかったのですが、生徒さんとの会話ではスムーズにコミュニケーションがとることが出来て、人間同士として仲良くなれました。生徒さんから、コミュニケーション力も鍛えてもらったとも思いますし、ひとりひとりの個性や人間の多様性にも気づかせてもらったことは大きな収穫でした。
 それ以外では、大学で医師国家試験の対策委員も務めました。模擬試験を提供する会社との打合せや、試験会場の手配など、学生同士では感じることのない、社会の雰囲気を味わせて頂いて、学生のうちからこういう経験が出来たことは良かったと思います。

 

臨床実習のことを教えてください。

 私は「人の役に立ちたい。」と思って医師になろうと思ったのだと、臨床実習で再認識することが出来ました。COVID-19の影響は心配でしたが、私の学年は制限がある科もありながらも、大きな支障はなく、臨床実習に取り組ませて頂きました。私は様々な診療科の中で、産婦人科と小児科が強く印象に残っています。
 まず、産婦人科では、産まれてきた小さな小さな赤ちゃんに一番の感動を感じました。事態の急変しうる状況下で母児のために瞬時に的確な判断を下す先生方は本当に、ただかっこ良かったです。誕生という貴重な時間に立ち会わせて頂いたから自然に抱けた気持ちだと思います。その貴重な瞬間を全力でサポートしている医療従事者の方々に改めて尊敬の念と憧れを感じました。
 そして小児科では、小児がん、白血病を始めとする様々な疾患で入院されている患者さんと接することが出来ました。まだ小さな体で身長の三倍はあろうかという点滴の支柱を持ちながら歩く患者さんの姿を、「リハビリだから。」と見守るお母さんがいる。その患者さんとお母さんのそれぞれの思いが溢れんばかりの様子を見て、私はいたたまれないような、表現しがたい気持ちを抱きました。私のそんな気持ちを見透かすように、教授は、「自分がだらけた気持ちになりそうになったら、いつもで小児科に来なさい。」と、言ってくれました。教授の言葉は、霧がかった私の気持ちの核心を突いたようで、「子供たちの力になりたい。」と、強く明確に思うことができました。何よりも患者さんの姿は、「今出来ることを頑張れ」と私を鼓舞しているようでした。
 臨床実習を経験して、カルテや文献をとおして学習する患者さんの姿は、臨床の現場に出たことのない私たち学生にとっては症例としてしか感じられないのかもしれないと思いました。患者さんを診たことがある医師の先生方ならば症例から患者さんを感じ取ることができるのだと思いますが、経験のない私ら学生にとっては、実際の患者さんに会わせて頂くことに大きな意義があると実感しました。そして患者さんからは、症例学習からは得られない多くのことを学ばせて頂けたと思います。患者さんと接することで抱いた疑問から調べることで医学知識が深まることもそうですし、処置に対しての自分なりのアプローチも教科書やカルテから学ぶ以上の気付きと理解をもたらせていただけると思います。何より、「自分がなぜ医師になりたいのか。」という原点に気づかせて頂けたことは、私にとっては大きかったです。

 

これからの進路を教えてください。

 大分の県立病院で初期研修を行っていきます。こちらを希望したのは、産婦人科や小児科の診療が充実していたのもありますが、勤務されている方々の雰囲気が良かったことが一番の理由です。私たちが見学に行ったときも研修医の先生が熱心に話してくださり、何か得て帰って欲しいという気持ちが伝わってきました。研修医は覚えることもやることも多くて大変だと思うのですが、それを感じさせず、生き生きとされている研修医の先生を見て、私もここで研修して頂きたいと思いました。
 「雰囲気が良かった」と言っても、具体的に何も伝わらないと思いますが、私は直感的にそう思いました。研修が始まってから具体的にその雰囲気が良かった理由を知っていくのだと思います。自分の直感的に従って選んでいくのも、そう悪くないんじゃないかなと思います。
 将来に選ぶ専門の診療科は、これから研修を受けてから決めていきたいと思いますが、それがどの診療科だったにしても、現場でたくさん経験を積んで、ある意味で慣れていきながら、その経験を自分の中で蓄積していくまでは、私にとって大変なことだと思います。そうした経験の積み重ねで、やがて自信が持てるようになったなら、そこが、自分の持ち味を活かしながら、人の役に立てる存在になるためのスタート地点なんだと思います。いずれにしても、これまで培ってきた「学ぶ姿勢を崩さずに行く」ということを忘れないようにしていこうと思います。
 そして、まだまだ先ですが、私の学んで積み上げた経験が、患者さんでも後輩の医師の先生でも、その他でも、誰かの人生が開けるきっかけに役立つことができたり、またはその後押しをしてあげられるようなことが出来たらと思います。そう思うのは空手道部での感じた後輩の成長の嬉しさや、塾講師をやっていた時の、教える立場の生徒さんから教えられた経験が大きいと思います。自分が努力してきたことを惜しみなく誰かの役に立つことに費やして、逆に私も何かを得られて。そういう風な関わりを持つことが出来たなら、その充実感はすごいと思います。

 

最後に医学を目指す学生さんにメッセージをください。

 ネガティブに聞こえるかもしれませんが、本当に医師になりたいのか、もう一度自分に聞いてみてください。はっきりと答えが出せないのであれば、本を読んだりインターネットで検索したりして、明確な答えが出るまで考えてみてください。そして、本当になりたいと思えたら、ぜひ目指して欲しいと思います。医学部は入学試験も難関と言われていますが、入学してからもかなり多くのことを学んでいきます。そしてそれは医師になってからも続きます。中には医学部には入学してから、「やっぱり医師になりたいわけじゃない。」と気づく人もいます。そうなると、勉強をし続けるのはただ苦しいだけになってしまうと思います。
 医学部で過ごして思うのですが、みんな勉強が出来ることは当たり前で、勉強の他にも何か優れたことを持っている人がたくさんいます。同期にも先輩にも後輩にも、実習で出会った医師の先生も、本当にすごい人が多くて、たくさんの刺激をもらえます。私はそんな友人や部活動の部員たちを心から尊敬していますし、見習って何か一つでも吸収しようと思っていました。そんな人たちがたくさんいる環境にあることを誇りに思いますし、本当にここに来てよかったです。そしてみなさんも勉強だけでなく、他のことにも視野を広げて、何か一つ自分が好きなことを高めておくといいかもしれません。
 何より、中学生活、高校生活、受験勉強、部活動など様々な事柄をとおして、自分に対する理解を深めることを強くお勧めします。自分の取扱い方を自分で知っておくことで、やりたいこと、したくないこと、したくなくてもしなければならないこと、それに対しての自分に相応しい取り組み方などがわかり、自分が行きたい目標をはっきりさせ、そしてそこにたどり着くための道標になると思います。 まずは自分に合った勉強のやりかたを模索してみてください。
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