在学生の声

在学生の声

受験する前に、「本当に医師になりたいか」
自分に問いかけてみてください。


令和元年度 医学科6年 水山 愛美さん

医学を志したきっかけを教えてください。

 幼少期の話になります。私には兄がいるのですが、兄妹どちらも小児喘息で、特によく発作を繰り返していた兄は4、5歳の頃に度々入院していました。私の記憶は、兄の付き添いで病院に泊まっていた母を訪ねて別れ際に寂しいと泣いていたことくらいしかないのですが、だんだん大きくなるにつれて、母から医療知識がない中で苦しんでいる子を見守ることしか出来なかった当時の不安な気持ちを聞くようになりました。
  幸い経過がよく、私も兄も中学校に入学する頃には薬も必要なくなりましたが、母に聞かされていた話から、私も自分の子が病気をした時のために、医学のことを知っておきたいし、それで社会のためになるなら一石二鳥だと思うようになりました。 

 高校の推薦入試の面接練習で、将来の希望について具体的に考える機会があり、その時は喘息の症状を楽にしてくれた薬のように、創薬に関わって患者さんに薬を届けたいと思っていました。高校に入学して、友人との関係から、人とのコミュニケーションや言葉の影響力について考えさせられ、薬を創るよりも患者さんと直に接する医師に魅力を感じて、高校2年生の時に医学部への進学を決めました。 
 

受験勉強は大変でしたか。

 得意分野と不得意分野がはっきりと分かれていて、不得意分野に関しては大変だったと思います。 国語と英語が苦手で、国語に関しては、読書は好きだけれど問題文として出された文章は抜粋が多くなかなか頭に入ってこない、設問に用意された正解が自分の思っているものと違うと、解説を噛み砕いて納得するまでにかなりの時間がかかるという感じで、英語に関しては周囲に外国の方もいなかったため言語としての感覚的なイメージが持てず学習の意欲が湧きませんでした。逆に数学は解法を自分で考えられる自由さがとても好きでした。


 苦手科目の克服方法と聞かれても、今も克服出来ていないと思いますのでわかりませんが、苦手にいかに取り組むかということであれば、「嫌いなことを好きなことに変える付加価値をつけられるか。」だと思います。私の中学校では、宿題の代わりに何でもいいので大学ノート1ページを勉強のことで埋めて毎日提出する取り組みをやっていました。英単語や 漢字などで埋めると15分くらいで終わるのですが、私はノートに何かをまとめるのが好きだったので、その日に習ったことを3時間くらいかけて1ページにびっしりまとめていました。それが中学校からの習慣となり、受験勉強も「嫌いな教科に取り組む」というよりは、「好きなノートをまとめる作業」という風に意識を変えて、机に向かっていました。英語のリスニングも苦手でしたが、音楽を聴くのは好きだったので、洋楽を聴くことからはじめてみたり、ラジオで英語ニュースを聴いたりして苦手から逃げないようにしていました。今になってですが、自分で発音して韻を感じたり、自分の発音を録音して聴いてみたりするともっと面白く勉強できたかもしれないと思います。それから、疲れたらご褒美的に好きな数学をやったり、自力で解決できないものは先生に聞くなどして、受験勉強を乗り越えました。
 

入学してからの学習について教えてください。 

 私にとって医学科の講義はとても面白く、わりと着々と講義に沿って勉強した方だと思います。
 3年生から臨床の講義が始まり、現役医師の先生が講義を担当されるのですが、教育に特化した先生ではありませんので、受験対策の塾などの講義と同じように思っていると苦労するかもしれません。
  医学の科目では発生学と組織学が好きでした。発生学は受精卵から組織、器官への分化を学びます。ヒトが胚から「赤ちゃん」として成り立っていくまでの過程を知ることが出来てとても興味深かったです。組織学は顕微鏡で人体の正常な細胞・組織を観察する学問で、顕微鏡で組織を見ながらスケッチしたりしました。組織学の講義で正常の構造を学ぶと、1つの受精卵から細胞分裂を繰り返して「形」ができることの面白さが感じられ、また、不思議ながらも機能的で魅力的な形をしたこれらの組織が、加齢による変化やがん化などによって秩序のない形になってしまうことが悲しく感じられました。

 医学の講義でこういったことを知り、私たちが制御できる体の機能はほんの一部で、生物として機能させる機構の大半は人間のあずかり知らないところで成立していることを感じました。頭では「生きている」と思いますが、体を構成する個々の細胞の共同作業によって「生かされている」と言った方がしっくりくると感じています。
 

授業外で印象に残ったことを教えてください。

九山優勝
九山優勝
 部活動について、医学部の空手道部での活動は楽しかったです。入学オリエンテーションの後、勧誘され見学に行った際に、空手部の女性の先輩がとても格好よく見え、「空手かっこいい。」と思って入部しました。
初心者だったこともあり、初めの1年はフィットネス感覚で体を動かせればいいと思っていたのですが、2年生になって、女子の最強の経験者が入部して来てから考えが変わりました。大会では3人が1チームになり闘うので、その子が1勝しても、残り2人が負けると試合には勝てません。自分が足を引っ張ってはいけないと、試合に勝つという目的を持ってから練習の濃度が上がりました。
西医体 女子部員
西医体 女子部員
 九大山の家での空手道部合宿では山道を走りこんだりもしました。厳しく特訓してくれた先輩・同期・後輩たちのお陰で、九州・山口医科学生体育大会で優勝することが出来たのはいい思い出です。
 大会での結果がなかったとしても、空手部の練習で道着に着替え、練習の始まりと終わりに一礼をして、大きな声を出すということは、心身ともにかなりすっきりできる時間になりました。普段はあまりはしゃぐほうでもないので余計に良かったです。 

  それから、6年生で参加した韓国のクリニカルクラークシップも貴重な時間となりました。学生の目線でとても印象的だったのは、韓国の学生さんが勤勉であることでした。一日一日を全力で取り組んでいます。学生のスコアリングは毎日されていて、学生はタブレットからログインして指導教員からつけられたその日の成績を確認することができます。学生による症例報告発表は内容の深いものであり、みんな深夜12:00くらいまでそのプレゼン資料作成や勉強をしていました。
  学生がここまで真剣に取り組むのには、韓国の医師制度が関係しているかもしれません。韓国では診療科による偏りをなくすため、毎年新規に各診療科の医師に採用する人数を国が定めており、採用は医学部卒業時の成績などで決まります。希望の診療科に進めるかどうかは学生時代にかかっているのです。日本はまだそういった制度ではありませんが、韓国の学生のようにもっと自分も勉強を頑張ろうと刺激されました。 
  • 韓国クリクラ 先生、同級生と

    韓国クリクラ 先生、同級生と

  • 韓国クリクラ 脳外科の先生と

    韓国クリクラ 脳外科の先生と

  • 韓国クリクラ 観光

    韓国クリクラ 観光

病棟実習について印象に残ったことを教えてください。

5年次臨床実習班
5年次臨床実習班
 医学科では、5年生からの2年間、病棟での実習を行うのですが、私にとって一番衝撃的で将来を決めることになった診療科は精神科でした。 精神科の患者さんと接して、私の中で「精神科医として患者さんにできることはなんだろう。」という強い疑問が湧いてきました。他の診療科だったら、「がん細胞を取り除く」、「頭痛を和らげる」、「血糖値を正常の範囲内へコントロールする」など治療の目標がある程度明確です。それが精神科の場合、患者さんの状態に正解というものがありません。患者さんの症状に、例えば落ち着かない、強い不安感がある、感情の衝動が激しいなどということがあっても、私たち医師は問診でしか患者さんの通常の状態を知ることができません。今が患者さんにとっても通常なのか、疾患によって引き起こされた一時的なものなのか、または、以前と変わった点があっても、それもご本人としてそのままの状態でいてもいいのではないか、以前の状態に戻すことが絶対ということも言えないのではないか、と色々なことを考えました。患者さんご本人からの明確な治療への希望を確認出来れば、医師として行うことは明確なのかもしれませんが、精神科では患者さんが自らの希望で病院に訪れていない場合もあります。患者さんによっては治療を希望されないことも考えられるのです。精神科での実習の時は戸惑いが強く、寝込むほどに自問自答を繰り返し、今も答えは出ていません。私はそれまで幼少期の経験から小児科に興味を持っていましたが、このことがあってから精神科へ進みたいと思いました。医師として患者さんの役に立てるよう精進しながら、見つからないかもしれない答えを探そうと思いました。 

これからの進路を教えてください。

 大分県の医療センターで初期研修を受けます。そこでいろんな診療科で研修させて頂きますが、その後は精神科に進み、児童精神を専門にしたいと今は思っています。
  5年生の時に、友人の紹介で大分の療育センターを訪問させていただく機会を持てました。そこでは成長や社会への適応に課題を抱えるこどもたちの治療、支援を行っています。現場を見させて頂いて、児童精神科の先生から精神科医としての心の持ちようについてアドバイスも頂くことができました。社会に溶け込むために社会が望む人間像を目指すことが絶対的な方針にはなりえませんが、こどもたちが成長したときに自分の特性を理解して、社会と上手く付き合うことを選択肢の一つとして選べるように継続的に見守っていくことには大きな意味があると思い、将来はそういった分野に進みたいと思いました。5年生の実習も半分を過ぎたくらいに、これほどまでに鮮烈に胸に刻まれる診療科に出会えたのはとても幸運だったと思います。 

 それから、脳機能についての研究に携わりたいと思っています。学生の時に研究室で脳の電気信号の解析の基礎を学び、脳の活動を推測する技術にも興味を持ちました。例えば統合失調症の患者さんであれば、健常な人に比べて脳のこの部分を活発に使用している、というようなことがわかります。これらは脳の機能や精神疾患の病態解明につながる情報として重要です。また、もし検査を行うことで数値として疾患の状態を判定することが出来れば、治療を行う上でも患者さんご本人の受容の助けになりますし、患者さんの周りの援助者への理解の助けにもなることだと思います。 
 

最後に、医学を志す学生さんにメッセージをください。

 医学科を受験する前に、本当に医師になりたいか自分に問いかけて欲しいと思います。私は、「医学科に入学するということはほとんど就職と同じなんだ。」と4年間の大学生活が過ぎた頃の臨床実習前に実感しました。他の学科だと4年で大学を卒業して、それから大学院に進む、就職する、就職にしても職種の選択肢が多いように思います。医学科だと、公的機関へ進む人や起業する人、研究に進む人などの一部を除いて、大半は臨床医の進路を選びます。仮に大学4年生で、やっぱり臨床医になりたいわけじゃなかったと気づいたとしても、その後、2年の臨床実習を経て卒業しないと、学士の学位は授与されません。やりたいと思えないことに取り組む2年は長いと思います。このことは当然の事のようでありながら、意外と意識している人は少ないように思います。私自身、実感したのが4年を経過してからでしたから。臨床実習で医師の仕事を目の当たりにすると更に、医師は本当に大変な仕事であると感じます。受験前に、本当に医師になりたいのか、大学で、大学卒業後に何をしたいのか自分に問いかけてみて欲しいと思います。そうして医師を志したなら、ぜひ神聖な領域に踏み込んだことを自覚して勉学に励んでください。

 一方で、大学での学生生活は本当に楽しいということも伝えたいです。一人暮らしをするだけでも楽しかったですし、部活や同期、他学部の友人など、学生のうちでしかあり得ない距離感で交流を持つことが出来ました。友人と口論しても仲直りできたり、部活の飲み会で騒いで、OB・OGの先生方から遠い目で見られたりすることも学生の時にしか経験できないことだと思います。
  それからアルバイトでは普段出会えない方との交流を持てました。飲食店や家電量販店など自分が医学生として見られない状況を選んで色々とチャレンジしてみたのですが、医学科を離れた違う空気を感じることができ、また、お客様が自分の商品説明に納得して商品を購入してくれたりすることが本当に嬉しかったです。こういうことが出来るのは学生のうちだけですし、医師として歩み始めると味わえない世界だと思いますので、学生のうちにこういった経験も大切に日々を楽しんでください。
 
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